トランプ政権の対南米強硬策が招く逆風:コロンビアとベネズエラ「協調」の実像と、ロシア・中国カードの行方

はじめに
2026年1月初旬、米国がベネズエラで軍事行動を実施し、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束して米国で訴追するという異例の事態が起きました。
余波は周辺国にも広がり、トランプ大統領はコロンビアに対しても軍事行動を示唆し、ボゴタ側は「主権侵害への備え」を公に語る展開となっています。
この局面で語られる「コロンビアとベネズエラの一体化」や「ロシア・中国への接近」は、どこまで現実に即しているのでしょうか。
背景と概要
米国は2026年1月の軍事行動でマドゥロ氏を拘束し、ニューヨークの裁判所で薬物関連などの罪に問う構図を作りました。ベネズエラ側では副大統領だったデルシー・ロドリゲス氏が暫定(代行)大統領として正式に宣誓し、政権中枢の一部が形を変えつつ継続するかたちになっています。
ロドリゲス氏は一方で、米国との「協力の議題」を呼びかけるメッセージも出しており、全面対決一辺倒ではない姿勢も示しています。
この地域の緊張をさらに高めたのが、トランプ大統領の対コロンビア発言です。大統領専用機内でコロンビアのペトロ大統領を「病んでいる」などと攻撃し、軍事行動について問われると「それはいいね(sounds good to me)」と述べました。
これに対しコロンビア政府は、国際法上の「正当防衛」に言及しつつ、仮に侵攻があれば軍は領土と主権を守るべきだと表明しました。
現在の状況
コロンビアは、ベネズエラ情勢の不安定化が国境地帯(難民流入、武装勢力の越境、密輸など)へ波及することを警戒し、国境への部隊展開を進めています。報道ベースでは、ベネズエラ国境に約3万人規模の部隊を送ったとされています。
ただし、対米関係が直ちに「断絶」へ向かったわけではありません。コロンビア政府は麻薬対策で米国の情報・技術と協力を続ける方針も明確にしています。
その後、両国は完全衝突を避ける方向にも動きました。トランプ大統領はペトロ大統領との電話会談後、ホワイトハウス訪問の調整を進めると述べ、ペトロ側も会談を「礼節あるもの」と説明しています。
一方、ペトロ大統領がロドリゲス暫定大統領のコロンビア訪問に触れたものの、ベネズエラ政府は当面の外遊予定を否定しており、周辺外交も流動的です。
注目されるポイント
1)「コロンビア+ベネズエラが一体化して対米」という見立ては誇張されやすい
現時点で確認できるのは、(a)米国の軍事行動と対コロンビア威嚇が、コロンビア国内の主権意識と対米警戒を高めたこと、
(b)しかし同時に、麻薬対策など実務では米国との協力を維持していること、
(c)さらに対話ルート(首脳会談調整)も残っていることです。
「単一の軍隊」「不可逆の反米同盟」といった描像よりも、**危機対応(国境管理)と実務協力(麻薬対策)と政治的反発(主権・反介入)**が同時並行で進んでいる、と捉える方が現実に近いでしょう。
2)地域は“一枚岩”ではなく、分裂したまま危機に入っている
スペイン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイは共同声明で、ベネズエラ領内での一方的な軍事行動を国際法上の重大な問題として退け、地域の平和と民間人の安全に対する危険を強調しました。
他方で、中南米全体が同じ方向にまとまっているわけではなく、地域機構(CELACなど)でも足並みが揃いにくい状況が伝えられています。
この「分裂した地域秩序」のなかで、米国の強硬策は各国の国内政治(右派・左派、治安・移民、対米感情)を刺激し、対立線を増やしやすい点が重要です。
3)ロシア・中国カードは“自動的な勝利”ではないが、余地は生まれうる
ベネズエラは過去に中国・ロシアから資金や装備の支援を受けてきた一方、今回の米軍事行動では中国側が不意を突かれた可能性が示唆されています。
米国はこの局面を利用して「西半球から中国を遠ざける」メッセージを強めており、対中けん制の文脈でも南米危機を位置づけています。
ただし、米国が同盟国・近隣国に対して軍事的示唆を続けるほど、各国が保険として対中・対露関係を一部強める(経済・金融・防衛の“分散”)動機は高まり得ます。
「門戸を開く」というより、“ヘッジ(選択肢の確保)”が進むリスクが、強硬策の副作用として現れやすい局面です。
4)国境地帯の武装勢力と難民問題が、地政学を現場で動かす
コロンビアは国内武装勢力(ELNや元FARC系勢力など)と、ベネズエラ側の統治空白・治安悪化が結びつくことを恐れています。実際に国境周辺では衝突や避難の動きが報じられています。
この「現場の治安・人道」の圧力が、対米・対ベネズエラ政策を左右し、結果として大国間競争(米中露)に波及する、という順番で事態が拡大する可能性があります。
今後の見通し
- シナリオ1:対話による沈静化
米・コロンビア首脳会談が実現し、相互の威嚇を引き下げつつ、麻薬対策や国境管理を実務協議に戻す展開です。すでに電話会談と訪米調整の動きがあるため、現実的な線です。 - シナリオ2:限定的な治安作戦の拡大
ベネズエラ国内外にまたがる武装勢力・密輸網への圧力が強まり、国境地帯の軍事化が常態化する可能性があります。部隊展開の規模が大きいほど、偶発的衝突や人道危機の連鎖に注意が必要です。 - シナリオ3:米国の“次の標的”論が再燃し、地域のヘッジが進む
トランプ大統領が軍事的選択肢を繰り返し示唆するほど、各国は外交・安全保障の依存先を分散させようとし、結果として中国・ロシアの関与余地が広がる可能性があります。もっとも、それは同盟の形成というより、取引と分散の積み重ねとして進む公算が大きいでしょう。
総じて、今の焦点は「南米がどこ陣営に入るか」よりも、米国の強硬策が“対米不信”と“地域の分裂”をどこまで深めるか、そしてその隙間に大国間競争がどう入り込むかにあります。
