2026年1月のイラン抗議運動:バシジ拠点攻撃の報告、通信遮断、死者数をめぐる「情報戦」

はじめに

2025年末から2026年1月にかけて、イラン各地で大規模な抗議運動が発生し、治安部隊との衝突が激化しました。バシジ(Basij)関連拠点や警察施設が標的になったとする報告も出ていますが、政府による通信遮断の影響で、現地状況の独立検証は難しい局面が続いています。死者数も「少なくとも数千人」から「2万人規模の可能性」まで幅があり、国内外で認識が割れています。

背景と概要

今回の抗議運動は、通貨下落やインフレなどの経済悪化を背景に、2025年12月28日ごろから拡大したと報じられています。その後、スローガンは政治体制や最高指導者批判へ広がり、当局側は「暴徒」「武装勢力」「外国の関与」を強調する構図が目立ちました。

焦点の一つが、体制側の内政維持装置である革命防衛隊(IRGC)とバシジの役割です。バシジはIRGC傘下の志願制準軍事組織で、国内治安維持や抗議活動の抑え込みに関与してきたと、米国平和研究所(USIP)などが整理しています。

現在の状況

1)「拠点攻撃」報告と、検証の難しさ

反体制系団体などは、テヘランを含む複数都市でバシジ拠点が攻撃・放火されたと主張しています。たとえばテヘラン市内のバシジ拠点が襲撃されたという報告が出ていますが、一次情報の多くが通信制限下の断片的な映像や当事者証言に依存しており、規模や全体像の確定は容易ではありません。

2)死者数は「少なくとも5,000」から「2万人超の可能性」まで

死者数について、ロイターは「少なくとも5,000人が確認された」とするイラン当局者の説明を伝えています。一方で、HRANA(人権活動家系の集計)は確認済み4,519人、追加9,049人を調査中と公表しています。国営系メディアが約3,117人とする報道もあり、集計の範囲・定義・アクセス制限が数値の差を生んでいます。

また国連側では、状況の重大性を理由に国連人権理事会が緊急会合を開く動きも報じられ、国際社会の関心は高まっています。

3)通信遮断とStarlinkがもたらす「見え方」の分断

イラン当局は1月8日ごろから大規模な通信遮断を実施したと報じられています。これにより、衝突の実態や死傷者の把握が困難になりました。他方で、衛星通信(Starlink)を通じて映像や情報が国外へ流れる動きも報じられ、当局が妨害・摘発を強める「いたちごっこ」になっています。

注目されるポイント

1)抗議側の戦術変化と「治安装置」への直接圧力

警察施設やバシジ関連拠点が標的になったとする情報が増えるほど、当局側は強硬策に傾きやすく、死傷者増加と報復の連鎖が起きやすくなります。ただし、拠点襲撃の広がりや組織性は、遮断環境下で過大評価・過小評価の両方が起こり得ます。

2)市民・傍観者の巻き込みと、統治の正統性コスト

ロイターは、抗議参加者だけでなく通行人など「傍観者」も犠牲になったとする証言を伝えています。無差別的な被害が広がるほど、統治の正統性や治安機構への信頼は中長期で損なわれやすく、抑圧の短期効果と引き換えに社会の亀裂が深まるリスクがあります。

3)情報戦:国内統制 vs 国外発信

通信遮断は抗議側の連携を弱める一方、衛星通信の普及は「完全遮断」を難しくします。Starlinkをめぐる妨害・摘発が強まれば、現地の安全リスクは増す一方で、国外では「何が起きているか」をめぐる認識の分断が拡大します。

4)治安部隊の忠誠維持が分水嶺

英国議会のブリーフィングは、2026年1月の抗議運動について「治安部隊は忠誠を維持している」と整理しています。体制の短期安定はここに依存しますが、死傷者の増大・経済悪化・制裁強化が重なると、忠誠維持コストも上がります。

今後の見通し

今後は大きく3つのシナリオが意識されます。

1つ目は、強硬弾圧と拘束・処罰の拡大によって街頭の動員が沈静化する一方、地下化した反発が残り、散発的な衝突が続く展開です。
2つ目は、限定的な経済・社会措置や通信制限の調整で不満の圧力を弱めつつ、体制維持を図る展開です(ただし根本要因が残れば再燃しやすい)。
3つ目は、国際社会の制裁・外交圧力や、米国を含む域外要因が緊張を増幅し、国内危機が対外危機と結びつく展開です。

現時点では、死者数や拠点襲撃の広がりを含め「確定しにくい情報」が多いこと自体が、情勢を読みづらくしています。通信遮断が長期化するほど検証可能性は下がるため、信頼できる一次報道・人権機関の継続更新と、国連などの国際的検証枠組みが、状況把握の鍵になります。

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