ロシア中銀の利下げと「戦時経済」のひずみ:企業債務が示す統治コストの上昇

はじめに

ロシア経済は「制裁下でも耐えている」との政府発信とは別に、企業部門の資金繰り負担が重くのしかかっています。高金利の長期化で利払いが利益を圧迫し、延滞や条件変更(リスケ)への依存も強まりました。こうした中でロシア中央銀行(ロシア銀行)は利下げに踏み切りましたが、財政事情や政治との距離をめぐり「金融政策の独立性」が改めて論点になっています。

背景と概要

ロシア中央銀行はインフレ抑制を最優先に高金利を維持してきました。2025年には政策金利(キーレート)が高水準で推移し、6月には21%から20%へ引き下げたのを皮切りに、段階的な緩和局面に入りました。

一方で、財政面の制約は強まっています。ロイターによれば、ロシアの2025年財政赤字は5.6兆ルーブル(GDP比2.6%)に拡大し、歳入の柱である石油・ガス収入も大きく落ち込みました。財源確保の一環として、2026年初には付加価値税(VAT)が20%から22%へ引き上げられています。

この「高金利+財政圧力」という組み合わせは、軍需主導の需要を維持する一方で、民間投資や中小企業の資金調達コストを押し上げ、企業部門の体力を削りやすい構図です。成長率見通しも鈍化が意識され、IMFは2026年のロシア成長率見通しを0.8%としています。

現在の状況

企業部門:利払いが利益を圧迫し、延滞も増える

2025年9月時点で、ロシア企業が利払いに充てる負担が「税前・利払い前利益(EBIT)比で39%」という推計が報じられました。利益を投資に回す余力が細りやすい水準です。

負債残高も膨らんでいます。中央銀行データとして、銀行の企業向け与信と企業債残高の合計が2025年10月1日時点で約99.3兆ルーブルに達したと報じられています。

収益面でも陰りが見えます。ロススタット統計に基づく報道として、2025年1〜9月の企業の純利益(利益−損失)が前年同期比で7.7%減(約19.2兆ルーブル)となったとされています。

延滞については、中央銀行データを引いた露メディア報道で、借入のある法人・個人事業主のうち24%(約17.1万)が延滞しているとの指摘も出ています。

こうした状況を受け、ロシア中央銀行は2025年末、企業向けの債務再編(リスケ)を進めやすくするため、銀行側の引当(準備)ルールを緩和する措置も発表しました。資金繰り難が一部で顕在化していることの裏返しでもあります。

金融政策:利下げは進むが、インフレリスクも残る

政策金利は2025年秋に17%から16.5%へ引き下げられ、12月19日には16%へさらに引き下げられました(中央銀行の公式発表)。

ただし、中央銀行自身は「財政赤字の拡大」や「燃料価格」などのインフレ要因に言及しており、利下げは“景気刺激”というより、引き締め効果が出始めた局面での調整として位置づけられています。

統治の側面:外貨規制をめぐる権限再編が焦点に

金融政策の独立性をめぐっては、制度面の動きも注目されています。ロシア財務省が「大統領が大統領令で外貨規制(取引制限)を一方的に導入できるようにする」法改正案を準備していると、インテルファクス報道を基に複数メディアが伝えました。これは、資本移動・外貨取引の領域で、政策判断がより政治主導になり得ることを示唆します。

実務面でも、対外取引をめぐる制限が大統領令などで更新・延長されてきた経緯があります。こうした積み重ねは、中央銀行・政府・大統領府の権限配分をめぐる「見えにくい変化」を伴いやすい点に注意が必要です。

注目されるポイント

1)高金利の「副作用」が企業の延命コストを押し上げる

利下げが進んでも、金利水準そのものは依然高いままです。利払いが投資を圧迫し、延滞・リスケが増えるほど、銀行は慎重になり、民間の新規投資はさらに細りやすくなります。

2)財政赤字と増税が、物価と金利の判断を難しくする

VAT引き上げは財政の穴を埋める一方、短期的には物価押し上げ要因になり得ます。政府が赤字を抱える局面では、低金利志向が強まりやすく、金融当局の判断は「景気・財政・物価」の三すくみになります。

3)外貨規制の権限強化が、投資環境の不確実性を高める

大統領令で外貨取引を制限できる設計が強まれば、危機時の機動力は上がる一方、企業や投資家から見ると「ルール変更リスク」が高まります。通貨防衛と市場の信認維持をどう両立するかが課題になります。

今後の見通し

短期的には、中央銀行はインフレの再加速(VAT引き上げの波及、燃料価格、期待インフレ)を警戒しつつ、景気失速や企業金融の悪化を見ながら慎重に利下げを進める可能性があります。実際、当局・市場の間では2026年の追加利下げ観測も出ていますが、タイミングは物価指標次第になりそうです。

中期的な焦点は、(1)企業の延滞増が信用収縮に波及するか、(2)財政赤字の拡大が金融政策にどの程度の圧力をかけるか、(3)外貨規制の権限再編が経済運営の「予見可能性」を損なわないか、の3点です。軍需主導の需要が続くほど民生部門の投資余力は細りやすく、成長率も低位安定になりやすいとの見方が強まっています。

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