オーストラリアは「経済崩壊」なのか?住宅危機と生活コスト高、そして「1人当たり」で見た伸び悩み

はじめに

オーストラリアで「急速に崩壊している」といった強い言い回しが目立つ背景には、GDPなどの景気指標よりも、住まいの確保が難しくなったこと生活コスト高による体感の悪化があります。雇用は底堅い一方、家賃・住宅価格の高止まりが家計を圧迫し、「働いても余裕がない」状況が生まれています。この記事では、最新データを基に、何が起きているのかを整理します。

背景と概要

オーストラリアは資源輸出や移民流入を追い風に、相対的に堅調な局面が長く続きました。ただ、コロナ後に国境が再開して人口が増える一方で、住宅供給が追いつかず、都市部を中心に住居費が上がり続けました。

この結果、国全体のGDPが増えていても、人口増の影響で、1人当たりで見た経済(1人当たりGDP)が伸びにくい局面が起きやすくなります。ABS(豪統計局)は2025年9月期の国民経済計算で、GDPが前期比で増加する一方、GDP per capita(1人当たりGDP)は前期比0.0%(横ばい)だったと公表しています。
つまり「国全体は拡大しているのに、生活者1人ずつの実感は良くなりにくい」という構図です。

現在の状況

住宅価格:主要都市で高水準が継続

Domainの2025年12月の住宅レポートでは、シドニーの住宅(戸建て)中央値は1,759,909豪ドルとされています。為替で円換算は変動しますが、「一般的な世帯が手を伸ばしにくい水準」という見方につながりやすい数字です。

家賃:高止まりと“空室の少なさ”

同じくDomainの2025年12月レンタルレポートでは、シドニーの家賃中央値は戸建て800豪ドル/週、ユニット750豪ドル/週と示されています。
またSQM Researchは2025年12月の全国空室率を1.4%と公表し、季節要因でやや増えても長期平均より低い(タイトな状態)と位置づけています。空室が少ないと、引っ越しや住み替えの交渉力は借り手側が持ちにくくなります。

人口増:ピークアウトでも住宅需要は残る

ABSによると、純海外移民(Net overseas migration)は2023–24年度の429,000から2024–25年度は306,000へ低下しました。鈍化はしても、住宅供給が不足している局面では需給の逼迫が解けにくい、というのが実務的な見立てです。

物価と家計:インフレ鈍化でも「住居費」が重い

ABSの月次CPI(2025年11月までの12カ月)では、CPI上昇率は3.4%。内訳ではHousing(住居)が年間インフレの大きな押し上げ要因の一つとされています。
物価全体が落ち着いても、住居費が高止まりすると体感の改善は遅れがちです。

雇用は底堅いが、生活の余裕は別問題

ABSは2025年12月の失業率(季節調整済み)を4.1%と公表しています。雇用が急崩れしている状況とは言いにくい一方で、住居費が上がり続けると「働いても余裕がない」状態が発生します。
このギャップが、「景気が悪い」「国が壊れている」といった強い言説を生みやすい土壌になります。

インフラの混雑:医療などにも波及

人口増と住居不足は、医療・交通・教育などの混雑にもつながりやすくなります。AIHWは救急外来(ED)について、4時間以内にケアが完了した割合が近年低下していることなどを示しています。住まいの問題が都市の“処理能力”全体に波及している、という見方も可能です。

注目されるポイント

1) 「崩壊」というより「住宅危機+生活コスト危機」

重要なのは、マクロの統計が示す“国の倒れ方”よりも、住宅費の上昇が家計を直撃している点です。
AIHWは住宅ストレス(低所得層が住居費に総収入の30%以上を支払う状態)などの指標を紹介しており、住居費が家計の脆弱性に直結することが示されています。

2) 供給不足は、建設コスト・人手・計画規制が絡む

住宅は「需要があるから建てればよい」と単純に増えません。人手不足、資材・コスト、許認可、インフラ整備がボトルネックになります。Grattan Instituteは、需要の高い都市部で供給を増やすため、計画規制の見直し(中層住宅などの許容)を提言しています。

3) 税制が投資行動に影響する面(ネガティブ・ギアリング)

豪財務省はネガティブ・ギアリングについて、投資損失を給与所得など他の所得と相殺できる仕組みだと説明しています。市場環境によっては投資需要を下支えし、価格や家賃の動きに影響し得ます。ただし改革は政治的に難しく、ABSの統計では2019–20時点で持ち家(ローン有無合計)世帯が66%とされています。多数派の利害と衝突しやすい論点です。

4) 対策は動いているが、短期で“体感”が戻るとは限らない

政府は住宅供給目標として、2024年7月1日から5年間で120万戸の目標を掲げています。
一方で、2025年4月からは外国人による既存住宅の購入を原則禁止(2027年3月まで、例外あり)とする措置も導入されています。象徴的な政策ではあるものの、根本は供給力の増強であり、政策の効き目には時間差が出やすい点に注意が必要です。

今後の見通し

今後の分岐点は次の3つです。

  • 住宅供給の実行力:120万戸目標をどこまで現実の建設能力に落とし込めるか。計画規制・インフラ・人材育成が鍵になります。
  • 人口動態(純流入)の水準:純海外移民が鈍化しても高水準なら、住宅需給の逼迫は残りやすくなります。
  • 家計の息継ぎ(物価・金利):インフレが落ち着けば家計は助かりますが、住宅不足が続くと家賃の下押しは限定的になりがちです。

総合すると、オーストラリアの問題は「国全体が急速に崩壊している」というより、住居費を中心とした生活基盤の圧迫が、若年層・賃貸層・新規流入者に強くのしかかっている構造問題として理解するのが実態に近いでしょう。

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