中国経済は「ガチ減速局面」に入ったのか?PMIが再び50割れ、不動産大手Vankeの赤字拡大、人口減少が示す長期リスク

はじめに
2026年に入って中国株は一時持ち直したものの、景況感を示すPMI(購買担当者指数)は製造業・非製造業ともに50を下回り、先行き不安が強まっています。加えて、不動産大手の中国万科(China Vanke)が2025年に約820億元(約118億ドル)規模の最終赤字を見込むと公表し、不動産不況の根深さが改めて意識されました。さらに、人口減少・高齢化・男女比のゆがみといった構造問題が重なり、短期の景気刺激だけでは解きにくい局面に入っています。
背景と概要
中国経済の重心は長く、投資と不動産(住宅建設、関連産業、地方財政)に置かれてきました。しかし2021年以降、不動産の過剰債務問題が表面化し、開発業者の資金繰り悪化や住宅販売の低迷が続いています。
この間、中国政府は「不動産依存からの転換」を掲げ、先端製造・EV・半導体などを軸にした「新質生産力(新しい成長エンジン)」を強調してきました。とはいえ、新しい分野が伸びても、経済全体を下支えしてきた“古いエンジン(不動産)”が失速した穴を、短期間で埋めるのは容易ではありません。
政治面では、習近平指導部が「内需の拡大」や「先進製造の強化」を最重要課題として掲げています。ただし、経済の下押し圧力が続けば、政策運営への評価や社会のムードに影響し得る一方、直ちに政権の安定性が崩れると断定できる材料ではありません。見るべきは、データと政策の実行力です。
現在の状況
PMIが同時に50割れ:需要の弱さが目立つ
2026年1月の中国の公式PMIは、以下の通り悪化しました。
- 製造業PMI:49.3(50割れ=縮小局面)
生産は50.6と踏みとどまった一方で、新規受注は49.2に低下し、需要の弱さが示唆されています。 - 非製造業PMI:49.4
サービスは49.5と鈍化し、建設は48.8へ低下。不動産分野の事業活動指数は40を下回るとされ、厳しい状況が続いています。
「作れるが売れにくい」という需給のミスマッチは、価格の伸び悩み(デフレ圧力)や企業収益の圧迫につながりやすく、景気対策の難度を上げます。
不動産大手Vankeの赤字拡大:象徴銘柄でも厳しい
中国万科(Vanke)は、2025年の純損失(最終損益)が約820億元に拡大する見通しを示しました。前年(2024年)の赤字から約3分の2増とされ、不動産不況が「一部の民間開発業者だけの問題ではない」ことを印象づけています。
また、Vankeは債務の期日繰り延べ(償還延期)などで当面の資金繰りをつないでいると報じられています。政府・地方国有企業の支援が取り沙汰される局面もあり、不動産セクターは引き続き「金融不安の火種」として警戒されています。
政策は“緩和方向”だが、効果は地域差
中国当局は住宅ローン条件の緩和、購入規制の一部緩和、開発プロジェクトへの資金供給(ホワイトリスト)など、多面的な支援策を積み上げています。2026年1月には、危機を深めたとされる開発業者の債務規制「三つのレッドライン(three red lines)」について、運用終了や実質的な撤回を示す報道も出ました。
一方で、民間調査では「大都市の高価格帯は持ち直しの兆しがあるが、地方都市は在庫過多で下落が続く」といった地域差も指摘されています。政策が効きやすい市場と、効きにくい市場の分断が進むほど、全体回復は時間がかかります。
人口減少と超高齢化の進行:短期景気より重い構造問題
中国の2025年末人口は14億489万人で、前年末から339万人減(4年連続減)でした。出生数は792万人と統計上の低水準で、死亡数は1131万人に達しています。
年齢構成では、65歳以上が2億2365万人(全人口の15.9%)まで上昇し、高齢化が加速しています。
性別では、男性7億1685万人に対して女性6億8804万人で、男女比のゆがみも続いています(女性100に対して男性104.19)。
人口の減少と高齢化は、労働力供給・消費・住宅需要のいずれにも効いてくるため、不動産不況を“時間が解決する”形にしにくい点が重要です。
日本の不動産市場にも波及:湾岸タワマンの例
中国の景気減速や資金規制の影響は、海外の資産購入にも波及し得ます。日本では、東京湾岸エリアのタワーマンション市場について「中国人の購入が価格を押し上げてきたが、足元で勢いが鈍っている」との指摘が報じられました。
背景として挙げられているのは、(1)中国側の景況悪化、(2)日本の金利上昇でローン審査が厳しくなったこと、(3)転売目的に対する金融機関の融資姿勢の変化、そして(4)在留資格「経営・管理」の基準厳格化(2025年10月施行)などです。
日本の制度変更は投資・移住ルートにも影響し得るため、「中国経済の失速」だけで説明せず、制度要因もセットで見る必要があります。
注目されるポイント
1)「新質生産力」だけでは埋まらない“不動産の穴”
ハイテク分野が伸びても、不動産が抱える債務・雇用・地方財政への影響は大きく、景気の下支えを短期で代替するのは難しい局面です。PMIが示す「強い供給と弱い需要」の矛盾は、この構造を映しています。
2)Vankeの赤字は「市場の底打ちが近い」とは限らない
Vankeのような大手でも損失が拡大していることは、不況の長期化リスクを示唆します。債務繰り延べは時間を稼ぐ一方で、住宅販売が回復しなければ問題が再燃しやすく、投資家心理の改善には時間がかかります。
3)人口動態が不動産・内需の両方を押し下げる
人口減少と高齢化は、住宅需要の伸びを抑え、消費の勢いも削ぎやすい要因です。景気刺激で一時的に数字を作れても、長期の成長率を押し下げる圧力は残ります。
4)「習近平終わり」と断定するより、政策の持久力を点検する
経済が厳しくなるほど、指導部は内需喚起と産業高度化を急ぎます。ただし、財政・金融で過度にテコ入れすればバブルやモラルハザードの懸念もあり、政策は常にトレードオフです。注目点は、住宅販売・雇用・地方財政・消費がどこまで持ち直すかという“中身”になります。
今後の見通し
- 緩やかな安定化シナリオ:大都市の住宅市場が下支えされ、開発の選別支援(ホワイトリスト)で連鎖破綻を防ぐ。PMIは春以降に持ち直す可能性。
- 停滞長期化シナリオ:地方都市の在庫調整が進まず、デフレ圧力が残る。企業・家計が慎重姿勢を崩せず、内需が弱いまま推移。
- 不安再燃シナリオ:一部大手の資金繰り悪化が表面化し、信用収縮や住宅購入マインド低下が再燃。政策対応は強まるが、副作用も大きくなる。
日本側では、外国人需要の変化に加え、金利・融資姿勢・在留制度などが不動産市場の体感に影響します。「中国が悪いから日本が上がる/下がる」と単純化せず、複数要因の重なりとして見ることが重要です。

