ホルムズ海峡完全封鎖でも代替ルートでは埋まらない、日本の原油輸入「約半減」と備蓄の限界を試算する

はじめに

ホルムズ海峡が完全封鎖された場合、日本の原油調達はどこまで持ちこたえられるのか。よくある説明では「サウジやUAEには迂回ルートがあるから、すぐには止まらない」とされます。たしかにそれは事実ですが、それでも日本の調達構造を当てはめてみると、失われる原油はなお極めて大きく、現実的には「約半減」とみるのが妥当です。問題は、代替ルートがあるかどうかではなく、その能力が日本の依存度の大きさに到底追いつかないことです。

背景と概要

まず前提として、日本の原油輸入は湾岸依存が極めて高い構造にあります。2024年の日本の原油輸入先を数量ベースでみると、アラブ首長国連邦が43.0%、サウジアラビアが40.4%、クウェートが7.0%、カタールが4.1%で、この4か国だけで94.5%を占めます。日本国内で「中東依存9割超」と言われる背景はここにあります。

一方、IEAによれば、ホルムズ海峡を通る原油・石油製品は2025年で日量約20百万バレルに達するのに対し、海峡を迂回できる代替パイプラインの追加余力は全体で3.5~5.5百万バレルにとどまります。しかも、実際に運用できる大きな迂回ルートを持つのはサウジアラビアとUAEだけです。クウェートとカタールには、サウジやUAEのような大規模な原油迂回ルートはありません。

サウジについては、ロイターが3月24日に、東西パイプライン経由でヤンブーへ送れる原油は最大7百万バレル/日、そのうち輸出に回せるのは約5百万バレル/日と報じています。ただし、実際の3月の原油輸出は4.355百万バレル/日で、2月の7.108百万バレル/日から大きく落ちています。UAEについては、IEAがADCOPパイプラインの現在能力を約1.8百万バレル/日、平時利用を約1.1百万バレル/日、追加余地を約70万バレル/日と説明しており、ロイターは3月のフジャイラからの輸出が平均1.62百万バレル/日だったと伝えています。つまり、代替ルートは機能していても、平時の輸出を丸ごと置き換えられるほどではありません。

現在の状況

ここから、日本向けの原油がどこまで維持できるかを現実的に試算してみます。基準となる輸入総量は、財務省の速報ベースで2024年度の日本の原油輸入が134.67百万kL、日量に直すと約36.9万kL、約232万バレル/日です。これに2024年の国別構成比を掛け、さらにサウジとUAEについては「迂回ルートが使えても、実績ベースではどこまでしか流せていないか」を反映させます。

サウジ分は、日本の輸入全体の40.4%に相当します。このうち、3月の実績輸出4.355百万バレル/日は、2月の7.108百万バレル/日に対して約61.3%です。したがって、日本向けのサウジ分も単純化すれば、40.4%のうち約61.3%、すなわち全体の約24.8%分を維持できる計算になります。

UAE分は、日本の輸入全体の43.0%です。UAEの迂回ルートは、平時から約1.1百万バレル/日が使われている一方、ホルムズを通っていた原油はIEAベースで2.02百万バレル/日あります。したがって、平時の総輸出構造をおおまかに3.12百万バレル/日とみなし、3月のフジャイラ実績1.62百万バレル/日を当てはめると、維持率は約52%です。これを日本のUAE依存分43.0%に掛けると、全体の約22.4%分が維持できる計算になります。

ここに、ホルムズ海峡に依存しない米国、エクアドル、オマーン、オーストラリアなどの残り5.5%を足すと、日本が維持できる原油輸入は合計で約52.6%、逆に失われるのは約47.4%になります。つまり、サウジとUAEの代替ルートが機能しても、日本の原油輸入は「4割減」ではなく、かなり現実的にみて「約半減」なのです。なお、サウジとUAEが理論上の迂回能力をほぼ最大まで使えたとしても、失われる割合はなお4割強残ります。

しかも、この試算は数量ベースでの話にすぎません。ロイターは3月23日、サウジが4月のアジア向け供給をヤンブー積みのArab Lightのみに絞っていると報じました。つまり、量が届いても油種の選択肢は狭まり、製油所の処理適性や製品歩留まりの面で実効的な不足はさらに大きくなる可能性があります。

注目されるポイント

では、これを日本の備蓄で何か月吸収できるのか。ここは「248日分あるから大丈夫」と単純には言えません。資源エネルギー庁の2026年3月資料では、日本の石油備蓄は国家・民間・共同を合わせて248日分、保有量では7,289万kLですが、その大半は原油で、国家備蓄だけ見ても原油4,177万kLに対し製品は142万kLです。しかも備蓄日数は石油備蓄法上の国内消費量を分母にした数字で、一般にイメージされる原油輸入量に対する残日数とは一致しません。

まず、危機対応としてすでに表に出ている緊急放出パッケージを見ます。ロイターによれば、日本は3月16日に民間備蓄の放出を始め、26日から国家備蓄を放出し、さらに共同備蓄から5日分を使う方針です。IEA調整の放出における日本の拠出は約8,000万バレルで、共同備蓄は総量1,300万バレルのうち5日分を使います。これを合計すると、今回すでに動員されている量は約8,930万バレル、kL換算で約1,420万kLです。

この1,420万kLを、先ほどの「原油輸入47.4%減」という不足量に当てはめると、日量不足は約17.5万kLです。単純計算では、今回の緊急放出パッケージで吸収できるのは約81日、月に直せば約2.7か月です。つまり、政治的にすでに動かされている分だけで見れば、「数年」「半年」ではなく、かなり現実的に見積もっても3か月弱のクッションにとどまります。

次に、理論上もっと広く見て、国家・民間・共同備蓄のうち原油部分だけをすべて不足補填に回せると仮定します。国家原油4,177万kL、民間原油1,278万kL、共同備蓄原油191万kLを合計すると5,646万kLです。これを同じ不足量で割ると、約323日、つまり10.6か月になります。ただし、これは「すべての原油備蓄を、物流・製油所・政策制約なしに、欠損分だけに使える」という極めて強い仮定を置いた上限値です。

さらに、製品在庫まで含めた全保有量7,289万kLをそのまま使えるとするなら、計算上は約417日、13.7か月になります。ですが、これは実務的にはかなり楽観的です。原油は製油所が動いて初めてガソリンや軽油になりますし、共同備蓄も国家備蓄と同じ意味で自由自在に使える自前在庫ではありません。実際、石油連盟は3月24日時点で、現行の民間・国家備蓄放出で外部供給の穴を埋められるのは「4月末まで」、代替調達が本格的に届くのは「6月以降」と説明しており、現場の見立ては上限値よりかなり慎重です。

今後の見通し

以上を踏まえると、ホルムズ海峡が完全封鎖されてもサウジとUAEの迂回ルートが使えるから安心だ、という見方は明らかに甘いと言えます。現実的な輸出実績ベースでは、日本の原油輸入は約47%失われ、たとえ政府がすでに決めた緊急放出をすべて充てても、吸収できるのはせいぜい2.5~3か月です。ここを過ぎれば、追加放出、代替調達、需要抑制、製油所運営の最適化を同時に進めない限り、需給は急速に厳しくなります。

しかも、これは原油だけの話です。LNGや石油製品、保険料、船腹、精製能力まで考えれば、経済全体の打撃はさらに大きくなります。今回のシミュレーションが示しているのは、日本の最大の弱点が「ホルムズ海峡に依存していること」ではなく、「依存の深さに対して、代替ルートも備蓄も十分な時間稼ぎにしかならないこと」です。備蓄は重要ですが、万能ではありません。危機を真正面から受け止めるなら、日本に必要なのは備蓄日数の安心感ではなく、調達先の分散と、危機時の需要調整を前提にした現実的な備えです。

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