アンソロピック「Claude Cowork」拡張でソフト株が急落、AI自動化は“企業消滅”を招くのか?

はじめに
米アンソロピックが業務自動化を強める「Claude Cowork」の新機能(プラグイン)を打ち出したことをきっかけに、世界のソフトウエア株・専門サービス株が大きく売られました。株価の動きは「主要サービスが一夜で無価値になる」かのような勢いでしたが、実態以上に悲観が先行している可能性も指摘されています。今回の下落が何を映し、何が誤解されやすいのかを整理します。
背景と概要
何が発表されたのか:Claude Coworkの「プラグイン」
アンソロピックは2026年1月下旬、「Claude Cowork」を“業務の共同作業者”として使うためのプラグインを公開しました。営業・法務・マーケティング・データ分析などの仕事に合わせて、社内ツールやデータ(CRM、ナレッジベース等)と連携し、手順やルールを組み込んだ“特注のAIワークフロー”を作りやすくする狙いがあります。
ここで市場が敏感に反応したのは、AIが単なるチャット相手から「アプリ層(業務アプリや専門サービスの領域)に入り込み、仕事の工程そのものを置き換える」方向に進んでいる、と受け止められたためです。
「AIがソフトを食べる」恐怖が生む値付けの歪み
生成AIの登場以降、SaaS(クラウドソフト)やITサービスは「AIで伸びる側」と「AIに置き換えられる側」の両面で見られてきました。とくに、経費精算、調査、契約レビュー、定型レポート作成のような知的作業は、LLM(大規模言語モデル)が得意とされます。市場はこの領域で“急激な代替”が起こると織り込みにいき、結果として株価が過敏に動きやすくなっています。
現在の状況
2月3〜4日に広がった世界同時の売り
ロイターによると、2月3日(米国時間)から欧米のデータ分析・法務データ・専門サービス株が急落しました。例として、法務・情報サービスのRELX(レレックス)やウォルターズ・クルワーが大幅安となり、トムソン・ロイターも記録的な下げに見舞われました。広告・コンサル周辺にも売りが波及しています。
2月4日には「売りが行き過ぎたのか」を見極める動きも出た一方、下落はインド、日本、中国などにも拡散しました。インドではIT指数が大きく下落し、労働集約型のITアウトソーシングモデルが、AIの高度化で圧迫されるのではないかという懸念が強まりました。日本でも人材・IT関連の一部銘柄が下げるなど、連想売りが目立ちました。
どれほどのショックだったのか:消えた時価総額
ロイターは、米S&Pのソフトウエア・サービス指数が2月3日に大きく下げ、その後も連続安となり、1月28日以降の数営業日でセクター全体の時価総額が大幅に目減りしたと報じています。市場が「AIが既存ビジネスを根こそぎ奪う」と考えるほど、値付けが急変したことを示します。
注目されるポイント
1)株価は「最悪シナリオ」を一気に織り込みにいった
ロイターBreakingviewsは、RELXの例を挙げて「下げ幅は、同社の主要事業が突然ゼロ価値になる前提に近い」と指摘しています。RELXは学術出版やリスク分析など幅広い事業を持ち、LLMに直ちに置き換わりにくい収益も大きいとされます。にもかかわらず、特定領域(法務データ等)へのAI競争懸念が“会社全体の存続不安”のように扱われた点が、過剰反応の根拠になっています。
2)「置き換え」だけでなく「組み込み」で守られる領域がある
同じくBreakingviewsは、既存の大手ほど独自データベースや顧客基盤を持ち、AIを自社製品に組み込むことで価値を再定義できる、とみています。法務・規制・リスク分野は、情報の信頼性、出典管理、責任の所在、ワークフローへの適合が重要で、単に生成できるだけでは代替になりにくい面があります。
3)AIは“ソフトを殺す”というより“ソフトの使われ方を変える”可能性
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、AIがソフトウエアを置き換えるという見方を「非論理的」として、AIは既存のソフト(ツール)を利用して仕事を進める側面が強い、という趣旨の発言をしています。これは「アプリが消える」よりも、「アプリの上でAIが作業する」「価格体系や提供形態が変わる」方向に現実味がある、という見立てにつながります。
4)専門サービス・ITアウトソーシングに波及した意味
今回の動きが国際的に注目されるのは、AIの影響が米国のSaaSだけでなく、インドのITサービス産業のような雇用集約型モデルや、各国の専門職ビジネス(法務、会計、調査、広告)にも及び得ることを、市場が一斉に意識したためです。短期的には“連想売り”でも、長期では人材戦略・単価・契約形態の見直し圧力として効いてくる可能性があります。
今後の見通し
- 短期:ボラティリティ(乱高下)は続きやすい
Coworkのような「業務を最後まで回す」発表が出るたびに、勝ち組・負け組の再評価が起こりやすくなります。決算でAIの影響をどう説明するかも株価材料になりがちです。 - 中期:焦点は“アプリ層の収益モデル”
既存ソフトは、席数課金(シート課金)から、AI利用量(タスク量)課金や成果課金への移行圧力を受ける可能性があります。専門サービスも「人月」から「成果+AI運用」へと価値の出し方が変わり得ます。 - 長期:差がつくのはデータ、統制、責任の設計
法務・金融・医療など、誤りが許されにくい領域ほど、データの品質、監査可能性、ガバナンス(権限管理・ログ・説明責任)が競争力になります。AIは“誰でも同じ”になりにくく、独自データと運用設計を持つ企業が相対的に強い展開も考えられます。

