トランプ政権の「グリーンランド強硬策」は何を壊すのか? ボルトン氏が警告する同盟危機

はじめに

2026年1月、米国のトランプ大統領がグリーンランド取得をめぐって欧州の同盟国に関税を示唆し、NATO内部に緊張が走っています。元国家安全保障担当補佐官のジョン・ボルトン氏は、こうした動きを「政権最悪の一手」と批判し、同盟の土台そのものを揺さぶると警告しました。問題は「北極の安全保障」なのか、それとも別の動機なのか。論点を整理します。

背景と概要

グリーンランドはデンマーク王国の自治領で、北極圏の要衝に位置します。海氷の縮小により航路や資源開発の可能性が語られやすくなり、米国・欧州にとって監視体制や海上安全保障の重要性は増しています。

一方で、米国は「保有しなければ守れない」立場に必ずしも立ってきたわけではありません。米国とデンマークは1951年の防衛協定を含む枠組みの下で、グリーンランド防衛に関する取り決めを持ち、米軍基地運用などの協力関係を構築してきました。現在もピトゥフィク宇宙基地(旧チューレ空軍基地)を軸に、北極圏の警戒・監視の重要拠点と位置付けられています。

今回、ボルトン氏が強調するのは「安全保障上の合理性があるなら、同盟内の調整で進められる」という点です。主権移転や“取得”の是非は、軍事・監視能力の増強とは別の政治問題として燃え広がりやすく、同盟の結束を損ねる火種になります。

現在の状況

焦点となっているのは、グリーンランド取得への支持を事実上迫る形での関税圧力です。報道では、トランプ大統領が複数の欧州諸国に対し、2月1日からの追加関税(10%)や、6月以降の引き上げ(最大25%)を示唆したとされています。欧州側はこれを主権侵害に準じる“威圧”と受け止め、対抗措置の検討を加速させました。

EUは緊急の首脳協議を開き、米国製品に対する大規模な報復関税案(総額約930億ユーロ規模と報じられる)を準備。さらに、第三国の「経済的威圧」に対抗するために整備した反威圧措置(Anti-Coercion Instrument)の活用まで俎上に載り、同盟国間の通商対立が制度面でも現実味を帯びています。

米国内でも懸念は広がっています。ボルトン氏は、グリーンランドをめぐる圧力は「米国の安全保障のため」ではなく「大統領個人の欲求に近い」と批判し、関税が市場の不確実性を増幅させている点にも言及しました。加えて、軍事的な行動が示唆される場合には議会が歯止めをかける余地があるとして、戦争権限をめぐる動きも取り沙汰されています。

また、対欧関係の不安定さを象徴する事例として、トランプ大統領が英領チャゴス諸島(ディエゴガルシア基地を含む)をめぐる英・モーリシャス合意を強く批判し、それをグリーンランド取得論の“根拠”に接続させたことも波紋を広げました。論点が雪だるま式に増え、同盟調整がますます難しくなる構図です。

注目されるポイント

  • 「北極の安全保障」と「領有・主権」の混線
    監視能力の強化、基地機能の拡充、海上安全保障の連携は、NATOや既存協定の枠内でも進められます。主権取得を前提にすると、同盟内の政治問題化が一気に進みます。
  • 関税の“威圧ツール化”が招く連鎖反応
    EU側が反威圧措置を検討する段階に入ると、単なる報復関税を超えた制裁・規制の応酬へ発展しかねません。経済面の損失だけでなく、外交・安全保障の協力にも傷が残ります。
  • NATOの信頼性への直撃
    同盟国の領域・主権をめぐり米国が圧力を強めれば、「集団防衛」の前提となる政治的信頼が揺らぎます。結果的に利得を得やすいのは、欧米の分断を望むロシアや中国です。
  • “資源目当て”の現実的ハードル
    仮にレアアース等の資源が注目されても、北極圏の開発はインフラ・環境・コスト面の制約が大きく、短期の収益化は容易ではありません。安全保障と資源を短絡させる議論は、期待先行になりがちです。

今後の見通し

当面の分岐は、米国が「関税による譲歩強要」を続けるか、同盟調整(NATO協議や二国間協定の拡充)へ軸足を戻すかにあります。

  • 緊張緩和シナリオ:北極圏の監視・海上安全保障・基地機能強化を、既存協定やNATO枠組みで具体化し、関税は凍結・棚上げ。政治問題化を抑えつつ実利を取りに行く形です。
  • 通商対立シナリオ:関税が発動され、EUも報復関税や反威圧措置で対抗。景気・市場心理の悪化が先に立ち、政権・議会双方に圧力がかかります。
  • 同盟危機シナリオ:軍事的示唆や主権をめぐる挑発が続けば、NATO内部の不信が深まり、対ロ抑止やウクライナ支援など他の戦略課題にも波及します。

ボルトン氏の問題提起が示すのは、「北極の課題」そのものより、同盟のルールを“取引”に変えてしまう危うさです。関税と主権問題が結び付けられた瞬間、合理的な安全保障議論は政治闘争に飲み込まれやすくなります。

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