ダボスでカナダ・カーニー首相が訴えた「中堅国の団結」“古い秩序”の終わりと新秩序の組み立て方

はじめに
2026年1月20日、スイスで開かれた世界経済フォーラム(WEF、通称ダボス会議)で、カナダのマーク・カーニー首相が「大国に迎合して安全を買う時代は終わった」と訴え、会場で異例ともいわれるスタンディング・オベーションが起きたと報じられました。
名指しは避けつつも、関税や経済的威圧を梃子にする大国外交への批判と受け止められ、トランプ米大統領との緊張も表面化しています。
背景と概要
ダボス会議は、各国首脳や企業経営者が集い、世界経済・地政学の方向性を議論する場です。今回カーニー首相は、「ルールに基づく国際秩序が、もはや十分な“保護”を与えない局面に入った」という認識を前面に出し、従来の国際協調の前提が揺らいでいると指摘しました。
そのうえで、カナダのような「中堅国(middle powers)」が、単独で大国に対抗するのではなく、価値と利益を共有する国どうしで連携して“被害者”にならない枠組みを作るべきだと訴えています。
この問題意識は、米国側でも「帝王的大統領(Imperial Presidency)」という言葉で象徴されるように、大統領権限の肥大化や制度の歪みが国際社会にも影響を及ぼし得る、という議論とも接続します(米国内の統治のあり方が、対外政策の振れ幅を拡大させるためです)。
現在の状況
報道・公開された講演録によれば、カーニー首相は次の点を強調しました。
- 経済統合が「武器化」されている:関税や市場アクセス、サプライチェーンを梃子に、力関係で相手を屈服させる動きが強まっている。
- 「中堅国は団結せよ」:中堅国は大国ほどの市場規模や軍事力を持たないため、共通のルール作り・相互支援で交渉力を補う必要がある。
- 国内の強靭化(戦略的自立):連携の前提として、各国が自国の供給網・産業・財政の持久力を高めることが不可欠だという考え方を示した。
発言の象徴として、「テーブルに着いていなければ、メニューに載る」という趣旨の表現が複数メディアで引用され、現状認識の強さを示すフレーズとして拡散しました。
一方、トランプ米大統領はダボスでカーニー首相を名指しで批判したと報じられ、米加関係の不確実性も浮き彫りになっています。
注目されるポイント
1) 「中堅国」という軸の復権
これまでの国際秩序は、米国の関与と同盟網を土台に回る局面が長く続きました。しかし、関税・制裁・輸出規制などの経済手段が、同盟国間でも交渉カード化しやすい環境では、「大国に依存し過ぎない連携」を志向する動きが強まります。カーニー首相の演説は、その潮流を“言語化”した点が注目されます。
2) ルールの「空洞化」ではなく「作り替え」へ
重要なのは、ルールが崩れたという嘆きだけで終わらず、価値(主権・人権・持続可能性等)を共有できる範囲で、新しい協調を組み立てるという発想です。WEFの講演録でも、課題ごとに連合を作る「可変幾何(variable geometry)」的アプローチが示されており、固定的な陣営論ではない方向性が読み取れます。
3) 国内政治の変化が国際秩序を揺らす
米国では大統領権限の強化をめぐる議論が続いており、統治のスタイルが対外政策の一貫性や予見可能性に直結します。こうした状況下では、各国が「米国を中心に据えた単線型の安全保障」だけでなく、複線的な連携を模索する動機が高まり得ます。
今後の見通し
今後は大きく3つの方向性が考えられます。
- シナリオA:中堅国連携が“実務”に落ちる
重要鉱物、エネルギー、先端技術、金融制裁耐性など、具体テーマで合意が進み、調達・投資・規格作りまで共同化する。すでにカナダと豪州の連携強化をめぐる動きも報じられています。 - シナリオB:大国の圧力が増し、連携が試される
関税・市場アクセス・通貨・安全保障負担などを使った圧力が強まると、各国の国内事情(産業界、雇用、選挙)で足並みが乱れ、連携は“理念倒れ”になるリスクもあります。 - シナリオC:分断の固定化と「小さな秩序」の乱立
全体の普遍ルールが弱まり、地域・テーマ別の“ミニ秩序”が併存する状態へ。安定性は増す分野もある一方、基準の乱立が貿易コストや政治摩擦を増やす可能性があります。
いずれにせよ、ダボスでの演説が象徴したのは、「古い秩序が戻る」ことを前提にした待ちの姿勢ではなく、中堅国が自国の強靭化と連携を同時に進め、新秩序を“設計”する側に回ろうとする動きです。その実効性は、今後の具体政策(通商・投資・安保協力)の積み上げで測られていくことになります。

