中国軍「制服組トップ級」まで調査拡大:反腐敗が示す統制強化とリスクの両面

はじめに

中国の軍隊(人民解放軍)を統括する最高機関「中央軍事委員会(CMC)」の中枢にまで、規律違反・汚職疑惑の調査が及びました。反腐敗の徹底を掲げる習近平指導部にとって、軍の統制を一段と引き締める動きといえます。一方で、軍の意思決定や作戦遂行に“副作用”を残す可能性も指摘され、周辺国にとっては見過ごせない局面です。

背景と概要

中国では2012年以降、党・政府・国有企業などを横断する大規模な反腐敗が継続してきました。近年は軍も主要な対象となり、特に2023年以降、装備調達や関連利権をめぐる調査が上層部にまで波及したと報じられてきました。

この流れの中で、2025年10月にはCMC副主席を含む複数の高官が党・軍からの処分対象となったと報じられています。これは「軍内の腐敗が例外ではない」ことを国内外に示すと同時に、指導部が軍の忠誠と統制を最優先課題としていることの表れでもあります。

また、軍に限らず党全体の規律処分は巨大規模に達しており、2025年に処分対象となった人数が非常に多いことも報道されています。反腐敗が“例外的な摘発”ではなく、統治手法として常態化している点が読み取れます。

現在の状況

2026年1月下旬、中国国防部(国防省に相当)が、CMC副主席クラスの軍高官と、CMCメンバーで統合作戦を担う参謀部門トップ級(統合参謀部に相当)の軍人について、「重大な規律違反」などの疑いで調査していると発表したと報じられました。調査対象は張又侠(ジャン・ヨウシア)氏と劉振立(リウ・ジェンリー)氏とされています。

張氏はCMC副主席として軍全体の統率に関わる重職であり、劉氏も統合作戦・指揮の中枢に位置づくため、単なる“地方部隊の不祥事”とは次元が異なります。近年の一連の粛正・更迭の延長線上で、軍の最上層にまで調査が及んだ形です。

注目されるポイント

1) 「統制強化」と「軍の機能低下」が同時に起こり得る

上層部の摘発は、習近平指導部が軍の規律と忠誠を再点検し、統制を固める狙いを持つとみられます。その一方で、指揮系統の要職が相次いで動けば、人事の空白や“萎縮”が生まれ、意思決定が遅くなる可能性があります。特に統合作戦の調整や危機対応では、経験と専門性を持つ層が安定していることが重要です。

2) 忠誠重視が進むほど「事故・誤算」のリスクが増える可能性

反腐敗の過程で、政治的な忠誠を優先する人事が強まると、現場の専門的な異論やリスク評価が上層に届きにくくなる懸念があります。軍事的なプロのブレーキが弱まると、偶発的衝突が深刻化するリスク(誤算)が高まる、という見方も成り立ちます。

3) 台湾・周辺海空域への影響は「抑制」と「突発性」の両にらみ

軍上層部の動揺は、短期的には慎重化(抑制)につながる可能性があります。一方で、組織の緊張が高い状態では、現場が過剰に強硬な行動で“忠誠”を示そうとしたり、逆に統制が緩んで現場判断が暴走したりするリスクもゼロではありません。周辺国としては、演習や接近行動のパターン変化、指揮系統のメッセージの変化を丁寧に見ていく必要があります。

今後の見通し

今後の焦点は、大きく4点です。

  • 後任人事と権限配分:CMCや統合作戦中枢の人事がどう入れ替わるかで、軍の意思決定の質と速度が変わります。
  • 調達・装備分野への波及:ロケット軍や装備調達をめぐる調査が続いてきた経緯があり、今後も装備・軍需関連に再び焦点が当たる可能性があります。
  • 対外行動の変化:台湾周辺や南シナ海などでの活動が「抑制される」のか、それとも「突発性が増す」のかは一方向では読みにくく、現場の兆候(航行・飛行の頻度、危険な接近の増減)を継続観測する局面です。
  • 反腐敗の“統治手法化”の継続:党全体での処分規模の大きさが示す通り、反腐敗は権力基盤の維持と統治の手段として続く可能性が高く、軍の人事流動化も当面は収まりにくいと考えられます。

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