ハメネイ師「ロシア逃避計画」報道は何を意味するか?―イラン抗議拡大と体制の分岐点

はじめに
2025年12月末から拡大するイランの抗議行動をめぐり、最高指導者アリ・ハメネイ師が「事態が制御できなくなった場合にロシアへ退避する計画を準備している」との報道が注目を集めています。一方、死者数や拘束者数を含め現地情報は錯綜しており、確認できる事実と未確認情報を切り分けて見る必要があります。
本稿では、抗議拡大の背景、最高指導者の“退避観測”が体制に与える含意、そして今後の分岐点を整理します。 Reuters+2Reuters+2
背景と概要
今回の抗議行動は、急激な通貨安とインフレなど経済苦を主要因として広がったと報じられています。ロイターは、通貨リアルが対ドルで「2025年に約半分の価値を失った」ことや、インフレが高止まりしている点を伝えました。 Reuters+1
同時に、イランは2025年6月の「12日間戦争」とされる対イスラエル・対米の軍事衝突の後、治安機関が国内引き締めを強めてきた経緯があります。戦後に大規模な摘発や国境地帯での治安強化が行われたとの報道もあり、体制側は「外部脅威」と「内部不満」をセットで警戒してきました。 Reuters+2Reuters+2
イランの権力構造は、最高指導者を頂点に、革命防衛隊(IRGC)、司法・治安機構、監督機関が重層的に絡む形です。制度上、最高指導者の選出・解任を担うのは「専門家会議」とされています。 Middle East Institute+1
現在の状況
抗議の規模と死傷者
死者数は媒体・団体で差があります。ロイターは、権利団体の集計として「少なくとも16人死亡」と報じ、逮捕者数も複数の推計があるとしています。 Reuters
APは、少なくとも35人死亡・1200人超拘束という推計を伝えました。 AP News
ガーディアンは、未成年の死者や未成年の拘束拡大にも触れています。 ガーディアン
いずれも、現地取材制限の影響で独立検証が難しい点が共通します。 Reuters+1
政権側の対応
ロイターによれば、ペゼシュキアン大統領は「対話」と「改革」を打ち出しつつ、治安当局はデモの一部を催涙ガスなどで抑え込む“二正面”の対応を取っています。 Reuters+1
ハメネイ師は「敵に屈しない」と述べ、抗議参加者の一部を「暴徒」と位置づける趣旨の発言も報じられました。 Reuters+1
「ロシア退避計画」報道の位置づけ
「ハメネイ師がロシアへ退避する“プランB”を準備している」という話は、英紙タイムズが情報機関の報告書を根拠に報じた、と複数メディアが伝えています。ただし、当事国の公式確認はなく、内容の独立検証もできていません。 ایران اینترنشنال | Iran International+1
ただ、この報道が注目される背景には、2024年末にシリアのアサド前大統領が失脚後にロシアへ亡命した前例があり、「最後の逃避先としてのロシア」という連想が働きやすい事情があります。 Reuters+1
注目されるポイント
1) 最高指導者の退避観測は「革命成功」を自動的に意味しない
仮に最高指導者が一時的に国外へ退避したとしても、それだけで体制転換が確定するわけではありません。分岐点はむしろ、
- 命令系統が実質的に機能しているか(治安機関・軍への統制)
- 治安機関が分裂/中立化するか
- 代替的な政治主体(暫定政権など)が国内で立ち上がるか
といった要素が、同時に起きるかどうかにあります。
2) 革命防衛隊(IRGC)の“選好”が最大の焦点
IRGCは軍事組織であると同時に、経済部門にも深く関与する複合体だと広く指摘されています。 clingendael.org+1
このため、IRGCが「最高指導者個人」より「体制(と自らの権益)の維持」を優先する可能性は常に論点になります。ただし、現時点でIRGCがどう動くかを断定できる材料は限られ、今後の兆候(声明、配置、内部粛清、指揮系統の変化)を丁寧に追う必要があります。
3) 後継選出は制度上は可能でも、政治的正統性の確保が難題
憲法上、専門家会議が最高指導者を選出します。 Middle East Institute+1
しかし、危機局面では「制度が動くこと」と「社会が納得すること」が別問題になります。とくに抗議が全国化し、治安対応で死傷者が増えるほど、次の指導者が“神権体制の継承者”として受け入れられるかは不透明になります。
4) 外部要因は「地上侵攻」よりも“選別的圧力”になりやすい
トランプ米大統領が、抗議への弾圧に対して強い警告を発しているとロイターは報じています。 Reuters+1
ただし、現実の圧力は、制裁や個別指定、情報戦、外交的孤立化など複線になる可能性が高く、軍事介入の有無は各国の政治・同盟調整に左右されます。
今後の見通し
今後の展開は、大きく次の3類型が想定されます(いずれも確定ではありません)。
- 体制の強権的維持
治安機関が統制を維持し、抗議が沈静化するケース。ただし経済状況が改善しない限り、再燃リスクは残ります。 Reuters+1 - IRGC主導の“事実上の軍事化”
形式上は神権体制の枠組みを残しつつ、実務を治安機関が握る形。IRGCの経済・治安上の存在感を踏まえると議論されやすいシナリオです。 clingendael.org+1 - 権力中枢の弱体化と政治空白の拡大
指揮命令系統が揺らぎ、各地で抗議・治安対応が長期化するケース。最悪の場合、統治の空白が治安・経済に連鎖し、周辺国も含めた地域不安定化につながります。
読者が注視すべき“具体的なサイン”は、①治安機関の分裂や離反の兆候、②最高指導者周辺の人事・粛清、③専門家会議を含む制度の動き、④抗議の持続性(ストや学生運動の広がり)、⑤物価・通貨・生活インフラへの即効策の成否です。 Reuters+2Reuters+2

