トランプ政権で再燃する「グリーンランド獲得」論―軍事オプション示唆がNATOに投げかける波紋

はじめに
米ホワイトハウスが、デンマーク自治領グリーンランドの「獲得」を国家安全保障上の優先事項と位置づけ、軍事力行使も「選択肢の一つ」と排除しない姿勢を示したことで、欧州・北米の同盟関係に緊張が走っています。デンマークとグリーンランド側は一貫して「売り物ではない」と反発し、欧州各国やカナダも主権と自決権の尊重を強調しています。 AP News+2ファイナンシャル・タイムズ+2
背景と概要
グリーンランドはデンマーク王国の一部で、2009年の自治法(Self-Government Act)により広い自治権を持つ一方、外交・防衛などの重要分野はデンマークが大きな役割を担います。自治法は、グリーンランドの人々の「自決権」を前提に、将来的な独立の選択肢も視野に入れています。国連ドキュメント+3STM+3STM+3
米国がグリーンランドを重視する理由は、主に「安全保障」と「北極圏の戦略価値」です。北西部には米軍のピツフィク宇宙軍基地(旧チューレ空軍基地)があり、ミサイル警戒や宇宙監視などで要衝とされます。基地運用は米・デンマーク間の防衛協定(1951年)と、その後の補足合意(2004年)などに基づきます。 アヴァロンプロジェクト+2GovInfo+2
また、トランプ氏が第1期政権時代の2019年に「グリーンランド購入」を示唆して以降、この論点は断続的に浮上してきました。 ガーディアン+1
現在の状況
直近では、ホワイトハウス報道官が「獲得は優先事項」であり、軍事も含む「幅広い選択肢」を議論していると説明したと報じられました。 AP News+2CBSニュース+2
政権高官のスティーブン・ミラー氏が「グリーンランドは米国の一部であるべきだ」といった趣旨の主張を展開し、強硬に受け止められています。 ファイナンシャル・タイムズ+1
こうした動きの前段として、トランプ氏の長男が2025年1月にグリーンランドを訪れたことや、2025年3月に副大統領J.D.バンス氏の妻ウシャ・バンス氏が高官とともにグリーンランドを訪問したことが報じられ、米側の関与が「継続的で体系的」と見られる土壌がありました。 Reuters+1
実際、バンス氏は訪問時にデンマークの安全保障対応を批判する趣旨の発言を行ったとされ、訪問後に基地司令官が更迭された件も含め、政治的圧力の強さが取り沙汰されています。 Reuters+1
反発も急速に拡大しています。デンマーク政府・グリーンランド自治政府は「併合の空想はやめるべきだ」といった趣旨で沈静化を求め、欧州側は同盟国への威圧がNATOの結束を揺るがしかねないと警戒しています。 Reuters+2ファイナンシャル・タイムズ+2
カナダは、ヌークへの領事館開設など北極外交の強化を打ち出し、主権尊重の姿勢を明確にしました。 AP News+1
注目されるポイント
1)「購入」ではなく「併合」や「軍事オプション」に触れることの重さ
グリーンランドがデンマーク王国の一部である以上、武力による領土変更は国際秩序の根幹(主権・領土保全)に関わり、同盟関係の前提を崩しかねません。欧州側が「NATOに致命的」と強く反応するのは、まさにこの点です。 ファイナンシャル・タイムズ+1
2)現実的な「獲得」の道筋は、同意と手続きなしに成立しにくい
専門家の議論では、仮に米国が関与を強めるとしても、(1)条約・合意に基づく購入交渉、(2)グリーンランド側の独立志向を踏まえた自由連合(COFAのような枠組み)など、「当事者の同意」を前提にした選択肢が論点になります。 ローウィン研究所+2STM+2
3)北極圏の安全保障は「基地」だけでなく、航路・資源・域外勢力の活動が絡む
ピツフィク宇宙軍基地はミサイル警戒・宇宙監視の要衝とされ、北極圏でのロシア・中国の活動への警戒とも結びつきます。さらに、希少鉱物や海運ルートの変化も絡み、各国が「北極のルール作り」と「プレゼンス拡大」を競う構図があります。 Al Jazeera+1
4)米国内でも一枚岩ではない
米国内では、強硬論への支持がある一方、同盟国への軍事的威圧は現実的でないとする議会・与党内の慎重論も報じられています。政権の強い発信と、制度・同盟・世論の制約のどちらが勝るかが焦点になります。 AP News+1
今後の見通し
今後は、次の3つのシナリオが現実味を持ちます(いずれも断定はできません)。
- 「軍事」を匂わせつつ、実際は交渉・投資・安全保障協力で影響力を拡大
グリーンランド側の自決権を前提に、基地・資源・インフラ協力を梃子に関係を深める展開です。 Reuters+1 - 独立論の加速と「自由連合(COFA)」型の議論が浮上
デンマークとの関係を維持しつつも、将来の独立と対米関係強化が同時に議論される可能性があります。 ローウィン研究所+2STM+2 - 強硬発言が同盟関係を傷つけ、NATO・北極協力の枠組みが揺らぐ
仮に軍事オプションの示唆が続けば、欧州・カナダが「対米依存の見直し」を議論する誘因になり得ます。 ファイナンシャル・タイムズ+1
当面の注視点は、(a)米国側が具体的な法的・外交手続きを示すか、(b)デンマーク・グリーンランド・米国の協議枠組みが整うか、(c)基地運用や北極圏部隊配置に「実務上の変化」が出るか、です。 アヴァロンプロジェクト+2Reuters+2

