CIAが中国軍に情報提供を呼びかけ、軍粛清の余波を突く「公開リクルート」と中国の反発

はじめに
米CIA(中央情報局)が2026年2月12日、中国軍関係者に情報提供を呼びかける中国語コンテンツを公開し、中国政府が強く反発しました。背景には、中国軍上層部の相次ぐ調査・更迭をめぐる動揺が指摘されています。米中の競争が軍事・技術だけでなく「諜報(インテリジェンス)の正面戦」にも広がっていることを示す動きです。
背景と概要
CIAは近年、特定国の政府関係者や軍関係者に向けて、インターネット上で“接触を促す”公開キャンペーンを段階的に強めてきました。今回の狙いは、軍内部の不満や不安を抱える層に「協力の選択肢がある」と示し、人的情報(HUMINT)獲得の糸口を増やすことにあります。
一方、中国側は近年、反スパイ法制の強化や国家安全機関による対外諜報への警戒発信を続けており、米側の動きを「主権・安全への侵害」と位置づけやすい土壌があります。今回も中国外務省は「必要な措置を取り、国家の主権・安全・発展利益を断固守る」「反中国勢力の企ては成功しない」として対抗姿勢を明確にしました。
現在の状況
今回公開されたのは、中国軍の中堅クラスの将校を想定した“架空の人物”が登場し、上層部の腐敗や権力闘争を批判しつつ、最終的にCIAへ連絡する筋立ての中国語コンテンツです。CIA長官ジョン・ラトクリフ氏は「多くの中国市民に届いている」などと述べ、同様の発信を継続する姿勢を示しました。
この動きが注目されるのは、中国軍上層部の粛清が続いているためです。中国国防省は2026年1月、中央軍事委員会(CMC)副主席の張又侠(ジャン・ヨウシア)氏と、統合作戦を担う部門トップの劉振立(リウ・ジェンリー)氏が「重大な規律・法違反の疑い」で調査を受けていると発表しました。
さらにロイターは2月、習近平国家主席が軍の腐敗摘発に触れるなど、異例の形で粛清に言及したとも報じています。
注目されるポイント
1) 「公開リクルート」は実務以上に“心理戦”の意味合いが強い
公開型の呼びかけは、実際に協力者を得る狙いと同時に、相手組織に「疑心暗鬼」を生ませる効果も持ちます。特に粛清局面では、内部の相互不信が強まりやすく、外部からの“揺さぶり”が効きやすいと見られます。
2) 中国のネット規制下でも「拡散余地はある」と米側が見ている
中国本土では主要SNSや動画サイトへのアクセス制限がある一方、CIAは「グレート・ファイアウォール(中国のネット検閲)の外でも届く」ことに一定の自信を示しています。こうした認識がある限り、同種の発信は今後も繰り返される可能性があります。
3) 中国側は“対外浸透”として取り締まりを強めやすい
中国外務省の反発は外交メッセージであると同時に、国内向けに「外部勢力の浸透を警戒せよ」と促すシグナルにもなり得ます。結果として、軍や関連産業、研究機関などでの身辺・通信・資金の監視強化、規律点検の加速につながる可能性があります。
今後の見通し
短期的には、米中双方が「相手の諜報活動を非難し、取り締まり・対抗措置を示す」という応酬が続きやすい局面です。中国側は国内引き締めを強める一方、米側は対中HUMINTの拡充を優先課題として掲げており、公開キャンペーンの継続・拡張も考えられます。
中長期的には、(1)中国軍の粛清が指揮統制や士気に与える影響、(2)米中の偶発的衝突リスクを高めない“管理”ができるか、(3)外交対話の空間が狭まるかが焦点です。軍内部の再編が続くほど、周辺国(台湾を含む)も中国軍の意思決定の安定性を注視しており、地域の緊張管理はより難しくなる可能性があります。
