イランで全国抗議と通信遮断が拡大:テヘランの混乱、政権の強硬策、米国介入示唆がもたらす緊張

はじめに
イランで経済危機を背景にした抗議行動が全国に広がり、首都テヘランを含む各地で治安当局との衝突が報じられています。
当局はインターネットと電話網を大規模に遮断し、情報流通が極端に制限される中で、死者数や拘束者数をめぐる報告は錯綜しています。
さらに、米国のトランプ大統領が治安弾圧次第で介入も辞さない姿勢を示唆し、イラン側が報復を警告するなど、対外要因が緊張を押し上げています。
背景と概要
今回の抗議の引き金は、通貨リアルの急落や物価高など生活不安とされています。抗議は当初、商店主やバザール関係者の動きから始まり、大学や地方都市へ拡大したとロイターは伝えています。
イランでは過去にも、燃料価格を契機にした2019年の抗議や、2022年の大規模抗議などの局面で、当局がインターネット遮断を含む強硬策を取ってきました。今回も同様の手法が繰り返されているとの見方があります。
また、状況を複雑にしているのが、対外環境です。ロイターは、トランプ大統領が昨年6月にイランの核関連施設を空爆した経緯に触れつつ、今回の抗議対応をめぐっても強い姿勢を示していると報じています。
現在の状況
報道によれば、抗議は2週間以上続き、死者数については人権団体の集計として「少なくとも203人」などの数字が伝えられています(通信遮断のため独立検証が難しい点は留意が必要です)。
当局は全国規模の通信遮断を実施し、ネットワーク監視団体NetBlocksも接続が通常のごく一部に低下していると発信しています。
通信遮断下でも、衛星インターネット「Starlink」を利用した迂回が試みられている一方、当局側が妨害(ジャミング)を強めている可能性が報じられています。
アムネスティは、遮断が人権侵害の隠蔽につながり得るとして、停止を強く批判しています。
対外面では、イラン国会議長が「攻撃を受ければ米軍基地やイスラエルを正当な標的にする」と警告し、米国側の示唆する軍事オプションに対抗姿勢を強めています。
※SNS上では「治安組織拠点の制圧」「首都機能の崩壊」といった激しい情報も流通していますが、通信遮断と検証困難性のため、主要メディアが裏付けた事実として扱うのは難しい状況です。
注目されるポイント
1) 情報遮断が「状況認識の分断」を生む
通信遮断は、当局にとっては抗議の組織化を阻害し、映像流出を抑える効果があります。一方で、国外は断片的な情報に依存せざるを得ず、誇張や偽情報が混じりやすくなります。NetBlocksなど技術系監視のデータは、遮断の有無を確認する材料として相対的に重要性が増しています。
2) Starlinkは「突破口」でも「リスク」でもある
Starlinkは迂回手段になり得る一方、当局の取り締まり対象になりやすく、妨害も報じられています。利用者側のリスク(摘発・拘束)を含め、万能な解決策ではありません。
3) 抗議の性格は「経済」から「統治」へ
経済危機が出発点でも、スローガンや要求が体制批判へ移ると、当局は譲歩より弾圧に傾きやすくなります。ロイターは、抗議が政権の正統性に関わる局面になっていると伝えています。
4) 米国の関与示唆が、国内抗議を「地政学リスク」に変える
米国が介入を示唆すれば、イラン当局は抗議を「外国の工作」と位置づけやすくなり、取り締まり強化の口実になり得ます。同時に、イラン側は報復を明言しており、偶発的衝突が地域危機に波及する懸念があります。
5) 核問題は“脅し”よりも「能力の不透明さ」が焦点
「短時間で核兵器化できる」といった断定的主張は、現時点で主要機関が確認した事実としては扱いにくい一方、IAEA推計では過去に最大60%濃縮ウランの蓄積が問題視され、60%は兵器級(約90%)に近い水準とされます。核能力をめぐる不透明さは、対外緊張の増幅要因です。
今後の見通し
今後は大きく4つのシナリオが考えられます。
- 強硬鎮圧の徹底:通信遮断・大量拘束・実力行使で抗議を沈静化させる。ただし国際的非難と国内の怨恨が残り、再燃リスクが高まります。
- 限定的譲歩+取り締まり:経済対策や一部更迭などで不満を薄めつつ、主導層は弾圧する「切り分け」型。
- 長期化・分散化:通信遮断下でも断続的な抗議とゼネスト的動きが続き、治安コストが積み上がる。原油市場も不安定化しやすい局面です。
- 対外衝突への連鎖:米国の軍事オプション検討報道とイランの報復警告が交錯し、限定的な攻撃・報復がエスカレートするリスク。
読者としては、(1)通信がどの程度回復するか、(2)死者数・拘束者数の推移、(3)治安機関内の動揺を示す確度の高い兆候が出るか、(4)米国・イスラエル・周辺国の軍事的動きが公式発表を伴って具体化するか、の4点を軸に見ると状況整理がしやすくなります。
