中国は本当に「レアアース輸出規制を解除」したのか?1カ月で起きた“許可再開”と、南鳥島沖レアアース泥が与える現実的インパクト

はじめに
「中国がレアアース輸出規制をたった1カ月で解除した」という情報が拡散していますが、実態は全面解除ではなく、管理を維持したまま“日本向けの一部輸出を限定的に承認し始めた”という動きに近いのが現状です。背景には、中国が禁輸カードを切り続けるほど「脱中国」が加速するというジレンマがあります。さらに、日本側では南鳥島沖でのレアアース泥引き揚げ成功が報じられ、供給網議論の前提が少しずつ変わり始めています。
背景と概要
レアアースは、EVモーター用磁石や精密機器、防衛用途などに不可欠です。中国は採掘だけでなく、分離・精製や磁石工程などで存在感が大きく、輸出管理が経済安全保障と直結しやすい分野です。
2026年1月以降、対日関係の緊張を背景に、中国側の輸出管理が強化され、日本企業の調達に影響が出たことが報じられました。その後2月に入って「一部輸出が承認された」との報道が出ましたが、これは“制度としての許可制が残ったまま、当局が一部案件で許可を出し始めた”という位置づけで、供給不安が消えたとは言い切れません。
現在の状況
1)中国:全面解除ではなく「限定的な輸出承認」
2月6日、共同通信の報道として「中国が、厳格化した管理の下で日本向けレアアース輸出を一部承認した」と伝えられました。量や運用の詳細は公表されておらず、制度・運用の不透明さは残ります。
2)日本企業:調達は“難しい局面”が続く
日本企業側では、在庫で当面の生産を維持しながら、調達先分散や使用量削減に動いていることが報じられています。つまり、限定的な承認が出ても、企業行動としては「再び詰まる」前提でのリスク管理が続く構図です。
3)日本:南鳥島沖でレアアース泥の引き揚げ成功、ただし「技術・採算性の検証はこれから」
ここで重要なのが、内閣府が発表した南鳥島沖(水深約6000m)でのレアアース泥の引き揚げ成功です。深海掘削船「ちきゅう」による試験で、深海から泥を回収できたこと自体は大きな前進とされます。
ただし日経が報じた通り、政府はこれを「すぐに国産化が確定した」とは扱っていません。採掘から分離・精製までの一連工程の技術検証と、商用化に耐える採算性の検証が必要で、回収した泥の量や含有成分などの分析を踏まえて判断する段階です(経産省も同趣旨を説明)。この「成果は大きいが、産業化はこれから」という整理が、過度な期待や誤解を避けるうえで重要です。
注目されるポイント
1)中国が強硬策を続けにくい理由:止めるほど“脱中国”が進む
レアアースを止めれば短期的には相手国の産業に圧力をかけられますが、同時に「調達先の多角化」「リサイクル」「代替材料」「非中国圏での精製能力増強」が加速します。中国にとっては、強硬策ほど中長期のシェア低下につながり得るジレンマがあります。
2)「解除」ではなく「許可制の運用」で不確実性を残す可能性
全面禁輸よりも、許可の出し方を変える方が“効きます”。許可が出るか・いつ出るかが読めないだけで、企業は在庫・保険・代替調達を余分に抱え、コストが上がります。今回の限定承認は、不確実性を残しながら運用を調整する動きとして読む余地があります。
3)南鳥島沖レアアース泥の意味:短期の供給源というより「交渉と投資判断の前提」を変えるカード
南鳥島沖の成果は、直ちに中国依存を置き換える量が出る段階ではありません。とはいえ、国家として「将来の選択肢」を示せることは、企業の投資判断や同盟国との供給網構築において心理的・戦略的な効果があります。
一方で、深海資源は環境影響評価、操業コスト、分離・精製プロセスの確立、国際ルールとの整合など課題が多く、ここを飛ばして「すぐ資源大国」と断定するのは危険です。政府が“技術と採算性の検証”を明言しているのは、この現実を踏まえた整理です。
4)世界の流れ:重要鉱物は「同盟国連携+投資支援+備蓄」のセットへ
米国を中心に、重要鉱物の供給網を同盟国で組み直す議論が進み、価格支援や備蓄強化などが組み合わされつつあります。こうした動きは、中国のカードの効き方を相対的に弱める方向に働きます。
今後の見通し
- 短期:中国側の許可運用は変動し得るため、日本企業は分散調達・在庫戦略を継続する可能性が高いです。
- 中期:非中国圏での分離・精製能力、磁石の製造能力、リサイクルの拡張が鍵になります。ここが進むほど、中国の「止める」効果は下がります。
- 長期:南鳥島沖は、分析結果(含有量・回収効率)と、分離・精製を含む一連工程、さらに採算性の検証が進むほど現実味が増します。ただし商用化は段階的で、過度な即効性を期待しない見方が必要です。
結論として、「中国が1カ月で規制を解除して降参した」と断定するよりも、管理を残したまま限定的な許可を出し始めた、そしてそれを受けて日本・同盟国側の供給網再編がさらに進む――この二段構えで理解する方が現実に近いと言えます。南鳥島沖の成果は、その再編を後押しする材料になり得ますが、政府自身が述べる通り「技術と採算性の検証」が次の焦点です。

