「最新鋭」オレシュニクの残骸から“旧式部品”が見つかった意味:ロシアの誇示と現実を読み解く

はじめに
ロシアは2026年1月8日深夜〜9日未明にかけ、ウクライナ西部リヴィウ州へ中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を発射しました。標的は重要インフラとされ、ポーランド国境に近い地域が狙われた点も注目されています。
その一方で、残骸の解析に携わったウクライナ側専門家は「機械式ジャイロ」や「ソ連時代の真空管(真空管部品)」など、旧式に見える構成要素が含まれていたと明かしました。
背景と概要
オレシュニクはロシアが「迎撃不可能」「極超音速」と強調する新型の中距離弾道ミサイル(IRBM)で、核弾頭の搭載能力もあるとされています。ロシアは2024年11月に初めて実戦投入し、2026年1月が2回目の使用だと報じられています。
ただし「極超音速」という言葉は誤解を招きやすい点もあります。弾道ミサイルは大気圏再突入時にマッハ5を超える速度に達し得るため、“弾道ミサイルであること”自体が高速性を意味します。実際、専門家は「この射程の弾道ミサイルは(一般に)極超音速域になる」と指摘しています。
一方で、オレシュニクの特徴としてしばしば挙げられるのが、複数の弾頭を分離して落とすMIRV(多弾頭化)に近い運用です。ロイターは、オレシュニクの「目新しさ」は、より長射程のICBMで一般的な“複数弾頭”を中距離級で用いる点にある、としています。
また同報道では、オレシュニクはRS-26「ルベジ」を基にしたものだと説明されています。
現在の状況
リヴィウ州攻撃の位置づけ
ロシア国防省は、今回の攻撃が「プーチン大統領の居住施設への無人機攻撃未遂への報復」だと主張しましたが、ウクライナ側は否定しています。
ウクライナ側当局は、リヴィウ州の重要インフラが標的になったとし、現地報道では巨大な貯蔵施設を持つストリ周辺が狙われた可能性も取り沙汰されました。
また、この攻撃は「停戦後の安全確保」をめぐる欧州側の議論とも時間軸が近い点がポイントです。英国・フランス・ウクライナは、停戦合意後の「多国籍部隊(MNF-U)」展開を想定した意向文書(Declaration of Intent)に署名し、枠組み整備を進める方針を示しています。
ロシアは従来から、外国部隊の展開に強く反発してきました。国境に近い西部への示威は、こうした動きを牽制する狙いがあるとの見方が出ています。
「旧式部品」指摘はどこまで確かか
注目の残骸分析について、CNNはウクライナのキーウ科学捜査研究所の専門家への取材として、残骸から「ガガーリンが使ったのと同種だ」と形容される機械式ジャイロや、「ソ連のランプ(真空管部品)」が確認された、という趣旨を伝えています。
ここで重要なのは、「部品が1960年代製だと製造年まで断定された」というより、「設計思想として古い世代の部品・方式が残っている(少なくともそう見える)」という指摘である点です。加えて、一部部品には2018年の製造表示があるとも報じられており、“丸ごと骨董品”と決めつけるのは早計です。
注目されるポイント
1) “旧式=脅威ではない”とは限らない
弾道ミサイルは、誘導妨害を受けにくい慣性誘導(INS)を基本にし、必ずしも最先端のデジタル化が不可欠とは限りません。オレシュニクが仮に旧式要素を含んでいても、「到達させる」「広域に落とす」「迎撃を難しくする」といった軍事的目的は成立し得ます。
また、ロイターの分析では、オレシュニクの2024年の初回使用は「長年使われてきたICBM技術の応用」という側面が強いとされ、技術的な“魔法”というより、誇示(心理戦)の要素が濃い可能性も示唆されています。
2) なぜ古い方式が残るのか:制裁・信頼性・核運用の論理
旧式部品が残る理由としては、大きく2つの読み筋があります。
- 供給制約(制裁):先端電子部品の調達難が続けば、既存在庫や旧世代の部品に依存しやすくなります。
- 意図的な選択:一般論として、真空管など旧方式はEMP(核電磁パルス)に対して相対的に強いとみなされてきた経緯があり、核運用を想定する体系では“古いが堅牢”を優先する発想が残り得ます。
もちろん、今回の残骸だけで「どちらが主因か」を断定するのは難しく、複合要因の可能性が高いところです。
3) 「迎撃不可能」主張の検証:技術論と政治メッセージを分ける
プーチン大統領は迎撃不能性を誇示してきましたが、専門家は「この射程の弾道ミサイルを想定して設計された迎撃システムは存在する」と指摘しています(例:米SM-3 Block IIA、イスラエルArrow 3など)。
他方で、ウクライナが保有・運用する防空網で常時対処できるかは別問題で、少なくとも“西側の政治決定を揺さぶる効果”は狙いやすいと言えます。
今後の見通し
今後の焦点は、オレシュニクが「実戦での効果」をどこまで積み上げられるか、そして「欧州の安全保証議論」をどこまで萎縮させられるかです。英国・フランスが想定する停戦後の多国籍部隊構想が具体化すれば、ロシアは西部への示威や“新兵器”の誇示を繰り返す可能性があります。
一方で、残骸分析が示すように、オレシュニクが「全く新しい技術体系」というより既存技術の延長線上にあるなら、西側はミサイル防衛・早期警戒・分散配置などで“恐怖の上乗せ”を相殺しようとするでしょう。誇示と対抗措置が連鎖すると、偶発的なエスカレーション(とくに国境近傍での誤認)を招くリスクが高まる点には注意が必要です。

