ロシア経済に迫る「戦時型ひずみ」:企業債務84兆ルーブルと石炭赤字が示す2026年のリスク

はじめに:ロシアでは2025年末にかけてインフレ鈍化と利下げが進む一方、企業債務の膨張、資源収入の減速、石炭産業の深刻な赤字が同時に表面化しています。数字の改善が一部に見えるほど、裏側で積み上がる負担の大きさが目立つ局面に入っています。2026年に向けて「財政と金融の綱渡り」がどこまで耐えられるのかが焦点です。 Reuters+3Reuters+3cbr.ru+3
背景と概要
ロシア経済は、ウクライナ侵攻以降の制裁環境の長期化と、戦時支出(防衛・治安・関連産業の需要)に依存した「戦時型」の回り方が定着しました。一方で、輸出先の偏り(主にアジア向け)や価格ディスカウント、金融・物流面の制約が、資源輸出の収益性を圧迫し続けています。 Le Monde.fr+1
加えて、財政の安定装置である「予算ルール」を巡っても、エネルギー収入への依存度を下げる狙いが強調されるようになりました。ロシア財務省は2025年9月、原油価格の基準を段階的に引き下げ、余剰収入を歳出に回しにくくする設計を進める方針を示しています。これは、価格変動と制裁のダブルリスクを前提にした“守り”の制度設計です。 Reuters
現在の状況
1)企業債務が「84兆ルーブル」規模に拡大
ロシア中銀(Bank of Russia)の統計では、非金融企業の負債(主に銀行借入)が大きな比重を占め、2025年7月1日時点で約84.4兆ルーブルと示されています。企業活動が回っているように見える場面でも、実態としては借入依存が強まっている可能性があり、金利環境次第で返済負担が急に重くなる構造です。 cbr.ru
2)石油・ガス歳入の減速が財政の“穴”になりやすい
ロシアの連邦財政にとって、石油・ガス収入は依然として重要な柱です。その収入が、原油価格の軟化やルーブル高などを背景に下押しされやすくなっています。たとえばReutersの試算では、2025年11月の石油・ガス歳入が前年同月比で大きく減少する可能性が報じられました。 Reuters
また、2025年10月までの累計で、石油・ガス歳入が前年から大きく落ち込んだとする報道もあり、戦時支出の継続と噛み合わない場合、赤字補填や追加増税への圧力が強まります。 The Moscow Times
3)石炭産業は赤字が拡大し、構造不況の色が濃い
石炭は“資源国ロシア”の一部を支える産業ですが、2025年は赤字が深刻です。ロシア側の説明として、2025年の石炭産業の損失が年初来で3000億ルーブル超に達したと報じられています。 TASS
さらにReutersは、Rosstat統計に触れつつ、2025年上半期の石炭企業の純損失が急増した状況を報じています。価格低下、コスト上昇、制裁に伴う制約などが重なり、採算が悪化しやすい構図です。 Reuters
4)インフレ鈍化で利下げ、ただし「引き締め継続」のメッセージ
ロシア中銀は2025年12月19日に政策金利を**16%**へ引き下げました。インフレ率は低下方向にあるものの、目標(4%)からはなお距離があり、金融政策は当面タイトに保つという含意が強いとされています。 Reuters+2ウォール・ストリート・ジャーナル+2
注目されるポイント
「数字の落ち着き」と「体力の消耗」が同時進行する
インフレ鈍化や利下げは一見“安定化”に見えます。しかし同時に、企業債務の膨張、資源歳入の伸び悩み、特定産業(石炭など)の赤字拡大が進むと、経済は「金利で抑えれば景気が鈍り、緩めれば物価と通貨が揺れる」という板挟みに陥ります。 cbr.ru+1
戦時支出の維持が、民間の投資余力を削りやすい
戦時経済は短期的に需要を作りやすい一方で、労働力不足やコスト上昇を招き、民間部門の更新投資(設備・技術)を弱めがちです。制裁下で機械・部品調達が難しい状況が続けば、生産性の低下はじわじわと効いてきます。 Le Monde.fr
“増税・徴収強化”が万能薬になりにくい
歳入が伸び悩む局面での増税や徴収強化は、短期的には財政を支えても、中期的には企業の資金繰りや家計消費を冷やすリスクがあります。債務が積み上がるほど、景気の下振れが信用不安に波及しやすくなります。 cbr.ru+1
今後の見通し
2026年の焦点は、「急崩れ」よりも、耐久力の低下が臨界点に近づくかです。想定されるシナリオは大きく3つあります。
- 低成長のまま“持ちこたえる”
資源価格が大崩れせず、利下げで企業負担が多少軽くなれば、表面的には安定が続く可能性があります。一方で、成長率は抑えられ、産業の選別(勝ち組と負け組の二極化)が進みやすい局面です。 ウォール・ストリート・ジャーナル+1 - じわじわと制度疲労が進む(最も現実的)
歳入の弱さを補うための増税・準徴収強化、産業への支援と引き締めの混在が続き、地域経済や中小企業に負担が偏る形で“鈍い痛み”が拡大する展開です。企業債務が厚くなるほど、金利や景気の小さな変動が連鎖しやすくなります。 cbr.ru+2Reuters+2 - 外部ショックで「止まり方」が急になる
原油価格の大幅下落、制裁強化、物流・決済面の追加制約などが重なると、財政と金融の調整余地が一気に狭まり得ます。特に資源歳入が落ちた状態で支出圧力が残ると、通貨・物価・信用のどこかに歪みが出るリスクは高まります。 Reuters+2Business Insider+2
結局のところ、2026年に「国が止まる」と断定できる段階ではありません。ただし、企業債務、資源歳入、赤字産業という3つの負担が同時に重なるほど、政策の選択肢は減り、想定外の出来事に脆くなる——それが現在のロシア経済の現実に近い見取り図です。 cbr.ru+2TASS+2
