イラン抗議デモ:通信遮断下で強まる政権への圧力と、レザ・パフラヴィ氏「帰国準備」発言の波紋

はじめに

イランで2025年末から続く抗議デモが、2026年1月に入り全国規模へ広がっています。政府はインターネット遮断など強硬策を取る一方、亡命中のレザ・パフラヴィ氏(旧パフラヴィ朝の皇太子)が「帰国の準備」を示唆する発信を行い、反体制側の象徴政治が目立つようになりました。
ただし、通信遮断の影響で現地情報の検証が難しく、デモの規模や「停電」「治安部隊の撤退」といった主張には未確認情報が混在しています。確度の高い情報と、検証待ちの情報を分けて整理します。

背景と概要

今回の抗議行動は、急激な通貨安(リヤル安)と物価高への不満が引き金になったと報じられています。生活不安に端を発した抗議が、やがて政治体制そのものへの批判へ広がるのは、近年のイランでも繰り返されてきた構図です。

当局は抗議行動を「暴徒」や「破壊活動」と位置づけ、国外勢力の介入を示唆しながら治安回復を優先する姿勢を強めています。一方で、国外の人権団体や国際メディアは、実弾使用や拘束の拡大、医療現場の逼迫などを指摘しています。
この対立が先鋭化するほど、当局は「情報統制」に傾きやすく、現地の可視性はさらに落ちていきます。

現在の状況

最大の特徴は、当局が広範な通信遮断に踏み切っている点です。監視団体や複数メディアは、接続状況が大きく低下し、国外との通話・通信も不安定になっていると伝えています。

このため、SNS上で拡散される映像・証言は、場所や日時の特定が難しいものが増えています。「テヘランで大規模停電」「数百万人が街頭を掌握」「治安部隊が撤退」といった強い表現も見られますが、現時点では主要通信社レベルで一括して裏付けられているとは言い難い状況です。

死傷者については、人権団体が大きな数字を公表している一方、当局の公式発表は限定的で、独立検証が難しい点が繰り返し指摘されています。少なくとも、衝突の激化と死傷者の増加、拘束の拡大、そして当局側にも死者が出ていることは複数ルートで報じられています。

注目されるポイント

1) 通信遮断は「鎮圧手段」であると同時に「政権の危機感の表れ」

インターネット遮断は、抗議の組織化や映像流出を抑える狙いがある一方、遮断が長引くほど経済活動や物流にも悪影響が広がり、別の不満を呼び込みます。
また、国外では「遮断=弾圧の隠蔽」と受け取られやすく、国連など国際機関の懸念表明につながりやすい点も重要です。

2) レザ・パフラヴィ氏の発信は「現地の実力」ではなく「象徴政治」の強化として見るべき

レザ・パフラヴィ氏が「帰国の準備」や抗議継続の呼びかけを強めるほど、反体制側には「旗印」が生まれやすくなります。
ただし、これが直ちに国内の指揮命令系統や実力支配を意味するわけではありません。むしろ、象徴をめぐる争い(旧国旗の「獅子と太陽」などを含む)が目立つことは、抗議が経済不満にとどまらず、体制の正統性を問う段階に入っている可能性を示します。

3) 「体制崩壊」や「軍の離反」は、最大の関心点でありながら最も検証が難しい

通信遮断下では、「治安部隊が国民側に付いた」「国軍が撤退した」といった話が拡散しやすい一方、組織的離反の規模や継続性を外部から確定するのは困難です。
体制の安定を左右するのは、街頭の人数そのもの以上に、治安機関(警察、バシジ、革命防衛隊、正規軍)の命令系統が崩れるかどうかです。ここに明確な亀裂が出るかどうかが、今後の最大の分岐点になります。

4) 国際環境が「国内抗議」を「地域安全保障」に接続させる

米国が強い言辞で関与を示唆すれば、抗議側には心理的追い風になり得ますが、当局側には「外国の陰謀」論を補強する材料にもなります。
周辺国やロシアが「外部干渉」への警戒を強めるほど、イラン当局は対外強硬姿勢を取りやすくなり、偶発的衝突(誤認・誤算)リスクが上がる点には注意が必要です。

今後の見通し

今後は大きく4つのシナリオが考えられます。

1つ目は、強硬弾圧と通信制限で抗議が沈静化するシナリオです。ただし、経済不満が根に残るため、沈静化が一時的になる可能性もあります。
2つ目は、限定的な譲歩(物価対策や補助政策、取り締まりの緩和)で“出口”を探るシナリオです。しかし当局が抗議を「外国の工作」と位置づけるほど、譲歩は弱さに見えやすく、内部政治の制約が強まります。
3つ目は、治安機関や体制エリートの分裂が進み、政治プロセスが不連続に動くシナリオです。この場合、移行期の混乱(治安の空白、暴力の拡散、地方の自律化)が発生し得ます。
4つ目は、外部の関与が強まり、イランが対外危機として事態を再定義するシナリオです。米国の発信とイラン側の報復示唆が強まるほど、国内問題が地域衝突へ接続される危険が高まります。

当面は、①通信遮断がどの程度続くか、②死者・拘束者数の推移(複数ソースの整合性)、③治安機構の結束を示す兆候/亀裂を示す兆候、④周辺国・米国の軍事的動きが公式発表を伴って具体化するか、の4点を軸に追うのが現実的です。

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