米国は「南北戦争以来の危険水域」なのか?グリーンランド強硬論と国内治安機関の政治化が示す亀裂

はじめに

トランプ政権の対外強硬姿勢(グリーンランド、ベネズエラ、イラン)と、国内での移民取締り強化が同時進行し、同盟国・市場・世論に緊張が広がっています。英Times Radioのインタビューで共和党系ストラテジストのリック・ウィルソン氏(リンカーン・プロジェクト共同創設者)は、米国は「南北戦争以来の危険な分岐点」にあると警告しました。論点は、領土・戦争の是非だけでなく、国家権力の使い方が「対外」だけでなく「対内」にも転じているのではないか、という点にあります。

背景と概要

焦点の一つがグリーンランドです。トランプ大統領は「米国の管理が不可欠」「それ以外は受け入れがたい」といった趣旨の発言を重ね、NATOに支持を求める姿勢も示しています。これに対しデンマークとグリーンランドは主権・自己決定を明確に否定しつつ、協力枠組みの協議は続ける構えです。

安全保障の観点で重要なのは、グリーンランドが「既に米国が軍事的関与を行っている地域」だという点です。米国とデンマークは1951年の防衛協定に基づき、グリーンランドの防衛区域で米軍の活動を認めてきました。現在もピツフィク宇宙基地(旧チューレ空軍基地)がミサイル警戒・宇宙監視などの任務を担っています。つまり「基地利用・協定運用」と「主権移転(領有)」は別次元の選択肢として存在します。

もう一つの背景が、国際秩序と同盟の信認です。NATOの集団防衛(第5条)は、加盟国への武力攻撃を全体への攻撃とみなす枠組みで、同盟の根幹です。仮に同盟国の領土をめぐる武力行使が現実味を帯びれば、「抑止」と「結束」を前提にした国際ルールが大きく揺らぐ、という懸念が出ています。

現在の状況

グリーンランド:高官協議と「根本的な不一致」

2026年1月14日、グリーンランドのモッツフェルト外相とデンマークのラスムセン外相が、米国のJ.D.ヴァンス副大統領、ルビオ国務長官と会談しました。デンマーク側は「取得は必要ない」と述べ、両者の「根本的な不一致」が残る一方、米側の安全保障上の懸念を協議する作業部会を設ける動きも報じられています。

ベネズエラ:マドゥロ氏拘束と「力による既成事実」への警戒

米国がベネズエラのニコラス・マドゥロ氏を拘束し、麻薬テロ関連などの罪で米国内で裁く展開は、地域秩序と主権の観点から国際的に議論を呼んでいます。英国議会図書館の整理でも、2026年1月3日に米国がマドゥロ氏を拘束したとされ、ロイターも米国での出廷・訴追を報じています。

イラン:米軍態勢変更と「衝突の連鎖」リスク

イラン情勢をめぐっては、トランプ大統領が強い警告を発する一方、地域の緊張を受けて米軍が中東の拠点から一部要員を移動させる動きが報じられました。ロイターは、イランが米国の攻撃に対する報復を警告する中で、米国が一部人員を引き揚げたと伝えています。
また、イラン国内の抗議行動と治安対応をめぐる死傷者数は情報が錯綜しやすく、ロイターは当局側・現地状況を含めた断片的な数字を報じています(通信遮断も含む)。

米国内:移民取締り強化と「法執行の政治化」論争

国内では、移民取締りを担うICE(移民・関税執行局)をめぐり、衝突が深刻化しています。ミネアポリスで2026年1月7日、ICE捜査官による発砲でレニー・グッドさんが死亡した事件は、連邦当局と州・市側で説明が食い違い、捜査権限や透明性をめぐる対立も報じられました。
ロイターは、政権の「見せる移民取締り」が暴力的対立を招きやすい構図になっていると報じています。
さらに、ヴァンス副大統領がICE捜査官の「免責」を強く主張したことを受け、連邦と州の権限関係、法的根拠の妥当性をめぐる論争も広がっています。

注目されるポイント

1)グリーンランド問題は「領有」より「同盟の信認」を揺らす

グリーンランドには既存の防衛協定と米軍拠点があり、運用拡大の余地も理論上は協議で確保できます。それでも「主権移転」を前面に出すと、デンマークだけでなくNATO全体との政治関係にコストが生じ、抑止の信頼性を損なう可能性があります。

2)対外強硬と対内強硬が連動すると「例外状態」が常態化しやすい

ベネズエラでの拘束、イランへの強い恫喝、国内での強制執行強化が同時進行すると、政権は「安全保障」を名目に法執行・外交を一体化させやすくなります。結果として、国内では法執行機関の行動範囲が拡大し、政治的対立の現場に直接入り込むリスクが高まります。

3)情報戦・広報戦の「空白」が、軍事オプションを相対的に強める

イラン情勢では、軍事行動以外にも資産凍結、制裁執行、海上輸送の監視、対外放送など複数の圧力手段が論点になります。一方で、米政府系メディア(VOAやRFE/RL)をめぐる運営方針や介入の報道もあり、対外情報発信の一貫性は不透明です。
(※この点は一部報道ベースで、当事者の反論も出ており、事実関係の確定には追加検証が必要です。)

4)「免責」論争は、治安機関の統制(シビリアン・コントロール)を問い直す

ICE捜査官の法的責任をどう扱うかは、現場の安全確保と、権力乱用の抑止をどう両立するかの問題です。州・市の捜査権限、連邦機関の透明性、司法の関与が政治問題化すると、社会の分断をさらに深める引き金になり得ます。

今後の見通し

  • グリーンランド:全面対立を避ける現実路線としては、作業部会などの枠組みで「基地運用・監視能力・投資」を拡張しつつ、主権問題は棚上げする形が最も起きやすいとみられます。ただし、大統領発言が強硬なほど、欧州側の結束や軍事的プレゼンス強化を招き、交渉余地が狭まる可能性もあります。
  • イラン:米国が軍事行動に踏み切れば、報復と再報復の連鎖で地域拠点の安全・海上輸送・エネルギー市場に波及しやすくなります。逆に、軍事以外の手段(制裁・資産凍結・輸出管理・情報発信)の組み合わせが主流になれば、短期の劇的効果は乏しくてもエスカレーション管理はしやすい、という見方が残ります。
  • 米国内(ICEをめぐる対立):今後は、司法判断(免責や権限の線引き)、州・市と連邦の協議、議会での監督強化が焦点になります。衝突が繰り返されれば、治安機関の運用が選挙・世論と絡み合い、「治安」と「政治」の境界が曖昧になる懸念も指摘されます。

総じて、ウィルソン氏の警告が示すのは「米国が内外で同時に強硬化したとき、同盟の信認と国内の法の支配が同時に試される」という構図です。実際の政策決定が、強い言葉の応酬から制度的な調整へ戻れるかどうかが、2026年の大きな分水嶺になりそうです。

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