「最後の優等生」万科危機が映す中国経済の難局:国有支援の限界と不動産・デフレの連鎖(2026年1月時点)

はじめに
中国不動産の「優等生」と呼ばれてきた万科企業(Vanke)が、債務返済の猶予延長や利払い繰り延べに追い込まれています。恒大集団や碧桂園といった民営大手の信用不安とは異なり、万科は「国有の後ろ盾がある」と見られてきた存在でした。今回の動きは、中国経済が抱える不動産在庫、地方財政、デフレ圧力が同時進行で重なり合う構図を、より鮮明にしています。
背景と概要
万科は長年、販売力や資金調達力の面で相対的に「安定側」に位置づけられてきました。ところが2025年後半以降、資金繰りの逼迫が表面化し、格付け引き下げや社債価格の急落が相次ぎます。
ポイントは、万科が「国有企業が大株主」という性格を持つことです。万科の主要株主には深セン市の国有企業が関与し、地方政府(深セン市の国有資産監督当局など)が、金融機関との調整に動いていると報じられています。にもかかわらず、返済条件の変更や猶予延長を繰り返す局面に入ったことで、「国有支援があっても、従来型の救済で時間を稼ぎ続けるのは容易ではない」という見方が強まりました。
現在の状況
直近で注目されたのは、万科が複数のオンショア債について、デフォルト回避を目的に返済猶予の延長を提案している点です。2025年12月に満期を迎えた債券について、当初の短い猶予からさらに延長する提案が出ており、債権者側も「一部元本の前払い」など複数案を議題に載せる動きが報じられています。
加えて、国内銀行団との間で、利払いのタイミングを「四半期ごと」から「年1回」へ変更し、当面の利払いを先送りする枠組みが調整されたとも伝えられました。これは、当局と金融機関が「万科の信用イベント(大規模な債務不履行)が市場全体に波及する」事態を避けたい、という政策的意図を示す一方、資金繰りが相当に厳しいことも裏返します。
また、万科を取り巻く環境として、住宅需要の弱さと価格下落が続き、家計の資産効果(不動産が目減りすることで消費が伸びない)を通じて内需が鈍る、という悪循環が指摘されています。輸出は堅調でも、国内の需要不足が解消しにくい構造が続いています。
注目されるポイント
1)「国が支えるから安心」という前提が揺らぐ
国有の関与がある企業でも、債務の「先送り」を重ねる局面に入ると、市場は「最終的に誰が損失を負担するのか」を意識します。全面救済が保証されているように見えた企業でさえ、返済条件の変更に追い込まれることは、信用の再評価につながります。
2)在庫問題は“規模の推定”自体がショックになりうる
不動産の過剰在庫は、公式統計だけでは捉えにくい面があります。推計では、建設中案件がすべて完成した場合の在庫規模が「非常に大きい」可能性が指摘されており、これが投資・金融・家計心理を同時に冷やす要因になります。重要なのは、数字そのものの大小だけでなく、「処理に時間がかかる」という市場の共通認識が形成されることです。
3)地方財政と金融の余力が細るほど、延命策の副作用が大きくなる
不動産不況は、土地使用権売却収入に依存してきた地方政府の財源を直撃します。地方の「隠れ債務」(LGFVなど)を巡っては、当局見積もりと国際機関見積もりの差が大きいことも報じられており、債務の付け替え(隠れ債務を公式債務に近づける)だけでは、実体経済への新たな需要を生みにくいという課題があります。結果として、金融機関が慎重になれば、優良企業にも資金が回りにくくなるリスクが残ります。
4)「実質は伸びても名目が伸びない」デフレ圧力が企業収益を削る
中国では物価指標やGDPデフレーターが弱く、名目成長が鈍る局面が続いていると報じられています。名目の伸びが弱い経済では、企業の売上や税収が増えにくく、債務返済能力が目減りしやすい。万科のような大手が資金繰りに詰まりやすい背景には、こうした「価格と需要の弱さ」があります。
今後の見通し
今後は大きく3つのシナリオが考えられます。
- 管理型の再編(“延長+段階的整理”)
当局・銀行が連携し、利払い・元本返済を調整しながら、プロジェクト単位で資産売却や事業整理を進める形です。急激なデフォルト連鎖は避けられる一方、景気の回復力は弱くなりやすい「長い調整」になり得ます。 - 不動産在庫処理の制度化(政策金融・受け皿づくり)
在庫を吸収する枠組み(住宅政策の受け皿強化など)が拡充されれば、価格下落の速度は緩む可能性があります。ただしコストは大きく、地方財政や金融機関の健全性との両立が課題になります。 - 外部環境悪化によるストレス増幅
対外関係の緊張や貿易面の不確実性が増すと、輸出頼みの成長が揺らぎ、国内の需給ギャップ(供給過剰)がさらに拡大する恐れがあります。経済の行き詰まりが長引けば、政治・外交面で強硬姿勢が意識されやすくなるという見方もあり、日本としては景気指標だけでなく、周辺の安全保障環境の変化にも注意が必要です。

