イラン抗議運動は「首都炎上」段階なのか:通信遮断下で拡散する映像と、実像を見極めるポイント

はじめに

2025年末から続くイランの大規模抗議運動をめぐり、「テヘランが炎上」「戒厳令」「体制崩壊」といった刺激的な情報が、SNSや動画を通じて急速に拡散しています。実際に各地で衝突や放火が報じられ、死傷者・拘束者も大幅に増えている一方、政府による通信遮断が続き、現地状況の検証は難しい局面です。今起きていることを、確認できる事実と未確認情報に分けて整理します。

背景と概要

今回の抗議運動は、政治的な反発だけでなく、生活苦と金融不安が重なって拡大したとみられています。特に象徴的なのが、民間大手「アヤンデ(Ayandeh)銀行」をめぐる危機です。不良債権や縁故融資などが指摘され、当局が国有銀行への統合・整理を進めた経緯が報じられています。こうした「預金や資産が守られない」という不信感が、通貨安・物価上昇と結びつき、抗議の社会的土台を広げたとの見方があります。

抗議が本格化したのは2025年12月下旬以降で、当局は「暴徒・外国勢力の関与」を強調しつつ強硬に取り締まりを続けています。死者数は、政府側が「確認された死者」を公表する一方、人権団体は別集計を出しており、数字には大きな幅があります。通信遮断や取材制限のため、どの統計も完全な裏取りが難しい点が前提になります。

現在の状況

1) 「戒厳状態」に近い治安運用と、通信遮断

イランでは1月上旬からインターネット遮断が強化され、当局は治安上の理由を掲げています。最近になり「条件付きで回復を検討」とする議会関係者の発言も報じられましたが、全面復旧の時期は見通せません。遮断が続くほど、現地映像の出所確認が難しくなり、誇張や混入も起きやすくなります。

治安面では、住民証言として「夜間は事実上の戒厳状態のようだ」との報道が出ています。大規模集会が常態化しているのか、局地的な衝突が断続的に起きているのかは地域差があり、テヘランでも「一斉蜂起」を断定できる材料は限られています。

2) 放火・襲撃映像はあるが、「規模」の確定は困難

銀行や行政施設が燃えているとされる映像が出回り、抗議行動の性格が「デモ」から「施設への攻撃」に移っているという主張もあります。ただし、通信遮断下では撮影日時・場所・被害規模の検証が難しく、テヘランで「130万人規模」など人口規模の断定は慎重であるべきです。現実に各地で衝突・火災が起きている可能性は否定できませんが、「どこで」「どれほど」「誰が主導したか」は別問題です。

3) 国営メディアへのサイバー攻撃と、情報戦の激化

国営テレビがハッキングされ、亡命中のレザー・パフラヴィー氏(旧王制の皇太子)支持や抗議を促すメッセージが流れたことが報じられています。これは、現場の衝突に加えて「情報空間」をめぐる攻防が本格化していることを示します。

4) 「外国民兵投入」説は独立検証が難しい

一部の亡命系メディアやシンクタンクは、イラクの親イラン武装勢力、アフガニスタン出身のファテミユーン旅団、パキスタン出身のザインナビユーン旅団などが鎮圧に関与している可能性を報じています。ただし、これは当事者が意図的に隠す性質の情報で、独立した裏付けは容易ではありません。重要なのは、こうした報道が事実であれば「治安機関の人的余力」「忠誠の揺らぎ」といった体制側の弱点を示唆する一方、誤情報であれば反体制側の動員・士気高揚にも使われ得る点です。

注目されるポイント

経済危機と政治不信が同時に進行している

抗議運動の持続性を左右するのは、街頭の勢いだけでなく、生活基盤(通貨・物価・預金の安全)への信頼です。銀行危機が「象徴」になったことで、政治スローガンに加え、経済的な怒りが幅広い層を巻き込みやすくなっています。

取り締まりの強硬化と、人権面の懸念

拘束者の増加や、拘禁下での虐待疑惑など、人権団体・メディアが伝える情報も増えています。こうした問題は、国内世論だけでなく、各国の対イラン制裁や外交姿勢にも影響し得ます。米国は鎮圧に関与したとされる人物・組織への追加制裁を発表しています。

対外危機(米・イスラエル)と内政危機が連動するリスク

米国が中東への追加戦力展開を検討していることや、イスラエルが複数のシナリオに備えているとの報道があり、緊張は地域全体に波及し得ます。ただし、軍事行動の実施は政治判断に左右され、報道される「数週間」などのタイムラインは流動的です。

今後の見通し

短期的な焦点は、(1) インターネット遮断がいつ・どの程度解除されるか、(2) 治安当局が大規模弾圧を継続するのか、局地的な鎮静化に移るのか、(3) 経済不安(通貨・銀行・物価)がさらに悪化するか、です。遮断が長期化するほど、現地映像が「確定情報」として独り歩きしやすくなり、国内外の判断を誤らせるリスクが高まります。

中期的には、抗議が「全国的な持続的蜂起」に発展するか、強権的な統制のもとで「断続的な抵抗」に移るかが分岐点になります。鍵になるのは、治安機関の結束、財政の持久力、そして一般市民がどこまで生活コストを受け入れられるかです。対外関係では、米国・イスラエル・周辺国の動きが、イラン側の強硬化(対外危機の強調)を促す可能性もあり、偶発的な衝突には注意が必要です。

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