トランプ氏の「グリーンランド強硬策」:欧州8カ国への関税通告とNATO・米国内への波紋

はじめに
グリーンランドをめぐり、トランプ米大統領がデンマークを含む欧州8カ国に追加関税を科す方針を示し、米欧関係が急速に緊張しています。EU側は対抗関税や「反威圧」措置の検討に入り、NATOでも北極圏の安全保障をどう扱うかが焦点になっています。米国内でも、同盟国への圧力や軍事力行使の可能性に対し、共和党内を含む懸念が表面化しています。
背景と概要
グリーンランドはデンマーク王国の自治領で、北極圏の要衝に位置します。島内には米軍基地(ピトゥフィック宇宙基地)があり、1951年の米・デンマーク協定の枠組みで米国は同地域に部隊を展開できるとされています。近年は北極海航路や安全保障上の関心に加え、重要鉱物(ハイテク・軍事用途を含む)の存在が注目され、米欧双方にとって戦略的価値が高まっています。
その一方で、デンマーク政府とグリーンランド側は「売り物ではない」と繰り返し強調してきました。安全保障上の懸念があるなら、同盟国間(NATOなど)で解決すべきだという立場です。
現在の状況
トランプ氏は、米国がグリーンランドを「購入できる」状態になるまで、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、オランダ、フィンランド、英国の8カ国に対し、2月1日から追加10%関税を課し、6月1日には25%へ引き上げる方針を示しました。対象国はいずれも既に別の関税の影響下にあるとされ、今回の措置は「同盟国への圧力」と受け止められています。
EU側は、対話で回避を図りつつも、報復措置の準備を進めています。具体的には、約930億ユーロ相当の米国製品への対抗関税を再稼働させる案や、対外的な経済威圧に対抗するための「反威圧手段(Anti-Coercion Instrument)」の適用が俎上に載っています。EU首脳会議(臨時会合)の招集も表明され、世界経済フォーラム(ダボス会議)を含む外交日程が「沈静化の場」になるか注目されています。
NATOでも北極圏の安全保障強化が議論されており、同盟内の「安全保障上の懸念」への対応と、「主権・領土」の原則をどう両立させるかが課題です。デンマークとグリーンランド側が、北極圏・グリーンランドを対象とするNATOミッションの可能性に言及したとの報道もあり、同盟としての出口戦略を模索する動きが続いています。
米国内でも支持は限定的です。Reuters/Ipsos調査では、グリーンランド獲得構想への支持は「2割弱」にとどまり、軍事力での獲得を「良い考え」とする回答は4%でした。議会では、同盟国への関税圧力を疑問視する超党派声明が出たほか、軍事介入は「NATOとの戦争になり得る」と警告する共和党議員の発言も報じられています。
注目されるポイント
第一に、米側が掲げる「北極圏の安全保障」を理由にしつつ、既存の同盟枠組み(基地・協定・NATO協議)を飛び越えて、領有や購入を迫る形になっている点です。欧州側は「安全保障は共同で、主権は不可侵」という整理を前面に出しており、交渉の前提が噛み合っていません。
第二に、関税が「取引の武器」として使われたことで、貿易問題が安全保障と直結する構図になりました。EUが対抗関税に加え、サービス分野などにも波及し得る反威圧手段の検討に入ったことで、火種は二国間の政治問題から、米欧の経済関係全体へ広がりかねません。
第三に、米国内政治への跳ね返りです。世論の支持が薄い上、同盟を損なう政策は共和党の伝統的な安全保障観とも緊張関係を生みます。軍事力行使をにおわせるほど、議会・世論・同盟国の抵抗が同時に強まり、政策が行き詰まるリスクが高まります。
今後の見通し
まず短期的には、2月1日の追加関税が実際に発動されるか、直前の外交で回避・延期に向かうかが分岐点になります。EU側は「協議の継続」と「報復準備」を並行させており、米側が強硬姿勢を維持すれば、2月上旬にも対抗関税が連鎖する可能性があります。
次に、安全保障面では「NATOとして北極圏の警戒・抑止を強化する」方向が、緊張緩和の現実的な着地点になり得ます。デンマーク/グリーンランド側がNATOミッションに言及していることは、主権問題と安全保障不安を切り分け、同盟内で対応する余地を残す動きとも解釈できます。
中長期では、(1)米大統領の関税権限をめぐる司法・議会の動き、(2)米国の対欧・対北極政策が国内政治でどれだけ支持されるか、(3)EUが反威圧手段を実際に発動するか、が焦点になります。いずれも一気に決着する性質ではなく、「強い言葉」と「限定的な実務協議」が並走しながら、関税と安全保障の両面で綱引きが続く可能性があります。

