中国経済に強まるデフレ圧力:不動産不況・過剰供給・若者不安が映す「内需の壁」

はじめに

中国は2025年の実質GDP成長率が前年比5.0%だったと発表しましたが、内需の弱さや価格下落圧力が同時に意識される局面が続いています。住宅・不動産の調整が家計の心理を冷やし、企業側は供給過剰と値下げ競争に直面しています。若年層の雇用不安や孤独感を背景に、生活者の「安全」ニーズを突いたアプリが注目を集めたことも、社会の空気を象徴しています。

背景と概要

中国の景気減速を語るうえで中心にあるのが、不動産市場の長期調整です。国家統計局(NBS)の発表では、2025年の不動産開発投資は前年比▲17.2%と大きく落ち込み、商業用建物の販売(面積・金額)も前年を下回りました。こうした資産価格の弱含みは、家計の「資産効果」を通じて消費マインドを押し下げやすいと指摘されます。

もう一つの鍵は「需要不足と供給過剰」の組み合わせです。2025年のCPIは前年と同水準(実質ゼロ)で、企業の販売価格に近いPPIは前年比▲2.6%とマイナスが続きました。物価が上がりにくい環境では、企業は値下げで販売数量を確保しようとし、利益率の低下や賃金・雇用への波及が懸念されます。

現在の状況

2025年通年の実質GDP成長率は5.0%でしたが、四半期別では年後半にかけて鈍化し、第4四半期は4.5%(前年同期比)まで低下しました。輸出は比較的堅調な一方で、消費や投資が伸び悩み、成長の「中身」に偏りがあるとみられています。

内需の弱さは、主要指標にも表れています。NBSによれば、2025年の小売売上高は前年比+3.7%にとどまり、固定資産投資は前年比▲3.8%、民間投資も減少とされました。特に不動産投資の落ち込みが全体の足を引っ張っています。

また、供給サイドでは「値下げ競争(価格戦争)」が構造問題として注目されています。過剰投資・過剰生産が国内市場に流れ込み、利益率が低下する中で、当局が過度な競争を抑える動き(いわゆる“anti-involution”)を進めているとも報じられています。

雇用面では、若年層の厳しさが続きます。ロイターによると、2025年12月の16〜24歳の失業率(学生を除く)は16.5%で、依然として高い水準です(統計の算出方法は近年見直されています)。

生活者の景況感を映す個別事象としては、イケアが中国で7店舗を閉鎖し、小型店中心の戦略へ転換すると発表したことが挙げられます。消費者心理の低迷や不動産不況の長期化が小売各社の戦略変更を促している、との文脈で報じられました。

さらに、孤独や健康不安を抱える一人暮らし層に向け、「一定期間チェックインがないと緊急連絡先へ通知する」趣旨のアプリ(当初は刺激的な名称で話題となり、その後“Demumu”へ改名)が注目を集めています。社会の不安感と“安全”需要の高まりを示す一例といえるでしょう。

注目されるポイント

1)「不動産の後遺症」が内需を縛る

不動産投資の急減と販売不振は、建設・地方財政・家計資産に波及しやすく、景気対策を難しくします。NBS統計でも不動産投資の落ち込みが際立ち、内需の弱さが長引くリスクを意識させます。

2)デフレ圧力は「消費の弱さ」だけでなく「過剰供給」でも強まる

CPIが伸びない一方でPPIがマイナスという組み合わせは、企業収益の圧迫につながりやすい構図です。特定産業での値下げ競争が広がれば、投資・雇用・賃金の慎重化を通じて需要不足が固定化する懸念があります。

3)若者不安は「雇用」だけでなく「社会心理」へ波及する

若年層の失業率が高止まりするなかで、孤独や安全への需要を補完するサービスが注目されるのは、景気循環というより社会構造の変化を映します。雇用対策は景気刺激策の一部であると同時に、社会安定の観点からも重要度が増しています。

4)統計への見方が割れ、市場の不確実性が増幅しやすい

成長率の評価をめぐっては、公式統計を前提にする立場と、代替推計から乖離を指摘する立場が併存しています。例えば米FRBの分析ノートや、民間シンクタンク(Rhodium Group)による推計は、成長の「見え方」に幅があることを示しています。

今後の見通し

今後の焦点は、輸出主導で成長率を維持する局面から、家計消費をどこまで底上げできるかへ移ります。実際、中国当局は2026〜2030年に向け、サービス分野も含めた消費喚起策を用意する方針だと報じられています。

もっとも、(1)不動産調整の長期化、(2)過剰供給による価格競争、(3)若者雇用の改善テンポ、(4)対外摩擦と輸出環境――が同時進行するため、政策の効果がすぐに広範囲へ波及するかは見通しにくい状況です。2026年の成長率は4%台半ばを見込む見方もあり、急回復というより「減速を管理する」局面が続く可能性があります。

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