中国経済は「崩壊」なのか?2026年に向けて注視すべき7つのストレスサイン

はじめに
「中国経済が崩壊している」という刺激的な言葉が飛び交う一方、実態は“急落”というよりも、不動産・雇用・消費・金融が同時に弱り、社会心理まで冷え込む「複合的な調整局面」と捉えるほうが現実に近い状況です。重要なのは、単発の悪材料ではなく、相互に連鎖しやすい“ストレスの束”として見極めることです。
背景と概要
中国経済は長く「投資(インフラ・不動産)+輸出+不動産を中心とした資産効果」で回ってきました。特に不動産は、家計の資産形成、地方政府の財源(土地関連収入)、銀行融資の受け皿という三つの役割を同時に担ってきたため、ここが弱ると波及が広がりやすい構造です。
近年は「高品質成長(ハイテク・グリーン・製造高度化)」への転換が掲げられていますが、産業の新陳代謝には時間がかかります。しかも、雇用吸収力が高いサービス業や民間企業の心理が冷えると、家計の将来不安が強まり、消費が伸びにくくなります。結果として、景気対策を打っても“効きが弱い”局面に入りやすいのが難しさです。
現在の状況
直近の統計・報道からは、以下のような「景気の下支えはあるが、内需の自律回復が弱い」絵柄が浮かびます。
- 不動産の調整が長期化:不動産開発投資は2025年通年で大きく減少し、新規着工の弱さも続いています。
- 若年層の雇用が重い:若者の失業率は高止まりし、卒業生の増加が就職市場の圧力を強めています。
- 消費の伸びが鈍い:小売の伸び率は月によって弱く、消費者心理が戻り切っていないことを示唆します。
- 民間企業の採用・投資が慎重:大手テックも人員最適化を進める一方、採用再開の動きはあるものの勢いは限定的です。
- 金融面の“局所的なひずみ”:不動産と地方財政の弱りを背景に、不良債権処理や債務の付け替え策が続きます。
こうした材料が同時に出ている点が、警戒される理由です。
注目されるポイント
中国経済を「崩壊」と断定するのは早計ですが、次の7つは“同時進行すると危うい”ストレスサインとして整理できます。
1) 不動産の長期調整と「資産効果」の逆回転
家計の資産が住宅に偏りやすい国では、住宅価格が伸びない(または下がる)だけで、将来不安が強まり消費が弱くなります。不動産は“景気のエンジン”であると同時に、“家計の安心感”の基盤でもあるため、調整が長引くほど内需回復の足かせになります。
2) 若年層の失業と「大卒過剰」の圧力
若者の失業率が高い状態が続くと、消費だけでなく結婚・出産・住宅購入といったライフイベントも先送りされやすくなります。さらに卒業生が過去最高水準で増える局面では、雇用の受け皿(民間・サービス業)が元気でないと、競争が一段と厳しくなります。
3) テック・民間企業の採用抑制と、規制リスクの残像
中国の雇用は民間企業の比重が大きく、特にテックは高学歴層の受け皿でした。近年の規制強化の記憶が残る中で、企業が「守り」に入ると、賃金・採用の伸びが鈍り、消費にも波及します。大手の人員削減は、景気全体の弱さの“増幅装置”になり得ます。
4) 消費の鈍化と「デフレ的な空気」
小売の伸びが低位で推移すると、企業は値引きで売ろうとし、収益が圧迫され、賃上げや採用がさらに弱くなるという循環が起きやすくなります。政策で金利を下げても「借りたい・使いたい」という心理が戻らない限り、効果は限定的になりがちです。
5) 中間層のバランスシート悪化と、家計の慎重化
不動産価格の調整と雇用不安が重なると、中間層は「守りの貯蓄」に傾きます。これは内需主導の成長モデルへの転換を難しくします。消費を刺激する施策(クーポン等)よりも、将来不安(雇用・社会保障・住宅)の緩和策が効きやすい局面です。
6) 地方財政・金融のストレスと、信用の目詰まり
土地関連収入の鈍化は地方政府の資金繰りを苦しくし、関連融資・金融商品の信用不安につながりやすい構造があります。中国当局は債務の借り換え・再編を進めていますが、問題が「点」ではなく「面」に広がると、民間の資金需要に信用が回りにくくなるリスクが出ます。
7) 社会心理の冷え込み(競争疲れ・諦めの拡大)
「内巻き(過当競争)」や「寝そべり(競争から降りる)」に象徴されるように、努力が報われにくい感覚が広がると、労働参加・消費・出生といった中長期の土台が弱ります。経済問題が“社会心理の問題”に移ると、統計以上に回復が遅れがちです。
今後の見通し
2026年は中国にとって、次期の国家計画が本格化するタイミングでもあり、政策の焦点は「製造・先端技術の強化」と「内需の底上げ」の綱引きになりやすいとみられます。展開は大きく3シナリオです。
- 基本シナリオ:低成長の常態化(“長い調整”)
不動産の下げ止まりに時間がかかり、当局は小刻みな景気下支えを継続。急崩れは避ける一方、消費の力強い回復は限定的、という姿です。 - 悪化シナリオ:不動産・地方財政の連鎖が強まる
特定地域や金融商品で不安が再燃し、信用収縮が起きると、投資・雇用・消費が同時に弱りやすくなります。 - 改善シナリオ:新産業の伸長+家計不安の緩和が噛み合う
EV・電池・再エネ・先端製造などの強みが内需と結びつき、雇用・所得の改善が進めば、消費の回復が見えやすくなります。
また対外面では、米国を中心とする通商圧力や輸出規制が続くほど、中国は「輸出の伸び」よりも「国内の雇用と所得」をどう作るかが一段と重要になります。外需が不安定なほど、内需の弱さは痛点になりやすいからです。
日本にとっては、中国向けの輸出・現地事業・インバウンドなどに逆風になり得る一方、供給網の再編や投資先分散の流れが強まれば、代替需要を取り込める余地も出ます。企業側は「中国需要の減速耐性(在庫・投資計画・与信)」と、「中国を外した供給網の確保」を同時に点検する局面です。
