出口なきアメリカ、イスラエルによるイラン攻撃は、日本に再びオイルショックの悪夢を呼び覚ますのか?

はじめに
米国とイスラエルによる対イラン攻撃が長期化し、ホルムズ海峡の通航が大きく乱れるなか、日本では「再びオイルショックが来るのではないか」という不安が強まっています。中東依存の高い日本にとって、これは決して大げさな懸念ではありません。
ただし、1970年代とまったく同じ形の危機がそのまま再来するわけでもありません。重要なのは、何が当時と同じで、何が違うのかを見極めることです。
背景と概要
今回の危機の中心にあるのは、ホルムズ海峡です。世界の石油需要の約2割に相当する量が通るこの海峡が大きく機能不全に陥れば、原油価格だけでなく、海運保険、精製燃料、航空燃料、石油化学製品まで幅広く影響を受けます。
日本は、その影響を受けやすい立場にあります。原油の中東依存度は9割を超え、足元では2025年の原油輸入の94%が中東由来、そのうち93%がホルムズ海峡を通るルートに依存していたと報じられています。
つまり、ホルムズの混乱は、日本にとって単なる海外ニュースではなく、燃料価格、物流コスト、電力料金、企業収益に直結する問題です。
現在の状況
足元では、すでに市場は強く反応しています。原油価格は一時1バレル100ドルを超え、国際エネルギー機関(IEA)は市場安定化のため、過去最大規模となる4億バレル超の備蓄放出を決めました。日本もこの枠組みの中で備蓄放出を進めており、民間備蓄15日分に加え、国家備蓄1か月分を活用する方針です。
一方で、日本政府は米国から求められているホルムズ海峡の護衛任務について、現時点では派遣を予定していません。憲法や法制度上の制約が大きく、まずは独自に何ができるかを見極める姿勢です。
その代わり、日本は豪州にLNG増産を働きかけるなど、エネルギー供給の多角化と代替調達を急ぎ始めています。
注目されるポイント
1) 1970年代型の「物不足」とは少し違う
今回の危機は、1973年や1979年のオイルショックと同じく中東発の供給不安ですが、当時とは構造が異なります。
日本はいま、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を合わせて2025年末時点で約8か月分の石油備蓄を持っています。LNGも原油ほど中東依存が高くなく、調達先の分散がある程度進んでいます。
このため、すぐにガソリンスタンドで長蛇の列ができたり、配給制のような事態に直結したりする可能性は、現段階では高くありません。
2) それでも「価格ショック」は現実的
とはいえ、安心はできません。今回の危機では、原油そのものよりも、むしろ軽油やジェット燃料などの精製燃料の方が強く打撃を受けているとの分析が出ています。
日本は製造業、物流、航空、発電で化石燃料への依存がなお大きく、燃料価格の上昇は家計より先に企業コストを押し上げ、その後に物価全体へ波及しやすい構造です。
したがって、今回の危機がもたらす現実的な悪夢は、1970年代型の「供給断絶」より、2020年代型の「高止まりするエネルギー価格と広範なコスト上昇」かもしれません。
3) 本当の危険は「長期化」と「エネルギー戦への移行」
現時点では、備蓄放出や代替調達で一定の緩和余地があります。
しかし、ホルムズ海峡の混乱が長引き、さらにカーグ島のようなイランの輸出中枢や湾岸諸国のエネルギー施設への攻撃が本格化すれば、話は変わります。
その場合、単なる通航障害ではなく、供給能力そのものが壊される局面に入り、日本が備蓄だけでは吸収しにくい「本物の供給ショック」へ進む恐れがあります。
4) 日本の弱点は「中東依存」そのもの
今回の危機で改めて浮き彫りになったのは、日本の原油調達構造の脆さです。
LNGは原油より分散が進んでいるとはいえ、それでも中東依存は残っており、ホルムズ海峡の不安定化は原油だけでなく電力・ガスの分野にも不安を広げます。
今回の危機は、単なる一時的な燃料高ではなく、日本のエネルギー安全保障の「地政学的集中リスク」を改めて突きつけたと言えます。
5) 「再びオイルショックか」という問いへの答え
結論としては、「はい、まったく同じ形ではないが、別の形のショックは十分あり得る」です。
1970年代のようなパニック的な供給不足は、備蓄や市場制度の整備によってある程度緩和されています。
しかし、原油高、精製燃料不足、物流費上昇、電力コスト上昇、企業収益の悪化という連鎖が続けば、日本経済にとっては十分に“オイルショック級”の打撃になります。
今後の見通し
今後の焦点は、ホルムズ海峡の通航がどこまで回復するか、そして戦争がエネルギー中枢そのものを狙う段階へ進むかどうかです。
海峡の混乱が短期で収まり、IEAの備蓄放出と代替調達が機能すれば、日本は「高いが耐えられる」水準で乗り切れる可能性があります。
一方で、戦争が長引き、ホルムズの機能不全が固定化し、湾岸施設への攻撃が連鎖すれば、日本は再び深刻な輸入コスト危機と供給不安に直面しかねません。
今回の危機は、単に「昔のオイルショックを思い出すべきか」という話ではありません。
むしろ、備蓄があっても依存構造が変わらなければ、日本は何度でも同じ弱点を突かれるという現実を、改めて突きつけているのではないでしょうか。

