中東全面戦争で中国は日本より耐久力が上回るのか?エネルギー構造と備蓄から見る

はじめに
中東で全面戦争が起き、ホルムズ海峡の機能が大きく損なわれれば、アジアの資源輸入国は強い圧力にさらされます。なかでも日本と中国はともに大量のエネルギーを海外に依存していますが、受ける打撃の質は同じではありません。
短期的にみると、中国は日本よりもショックを吸収しやすい構造を持っています。ただし、それは中東依存が低いからではなく、エネルギー構成、輸入先の分散、備蓄の厚さに違いがあるためです。
背景と概要
中東情勢がアジア経済に直結する最大の理由は、ホルムズ海峡の重要性にあります。この海峡は湾岸産油国の原油と石油製品の主要な輸出ルートであり、2025年には日量約2,000万バレルが通過しました。世界の海上石油取引の約4分の1にあたり、その約8割はアジア向けです。中国、インド、日本、韓国といった主要輸入国は、同海峡の安定に大きく依存しています。
問題は、代替ルートがあるとしても十分ではないことです。サウジアラビアやアラブ首長国連邦には海峡を迂回できるパイプラインがありますが、IEAは代替可能な余力を日量3.5万~5.5万ではなく、日量350万~550万バレル程度にとどまるとみています。つまり、ホルムズ海峡で大規模な障害が起きれば、完全な代替は難しく、価格上昇と物流混乱が同時に進む可能性が高いということです。
この局面で注目されるのが、日本と中国のエネルギー安全保障の差です。日本は原油の中東依存度が非常に高く、供給源の偏りが大きい一方、中国は原油輸入量こそ大きいものの、一次エネルギー全体では石炭の比重が高く、ロシアや中央アジアを含む複数の調達経路を持っています。危機の初期段階では、この構造差がそのまま耐久力の差として表れやすくなります。
現在の状況
日本の脆弱性は、原油調達の偏りにあります。資源エネルギー庁は、日本の原油の中東依存度が9割を超えると説明しており、2023年度は94.7%でした。LNGは原油より調達先の多角化が進んでいるものの、それでも中東依存は約1割あります。中東危機が長引けば、原油価格の高騰だけでなく、保険料、海上運賃、調達コストの上昇が日本経済に重くのしかかりやすい構造です。
一方、中国は世界最大級のエネルギー輸入国であり、原油では中東からの調達も大きい国です。それでも短期的な耐久力が比較的高いとみられるのは、エネルギー構造に違いがあるためです。米EIAによると、中国の一次エネルギー消費は石炭の比重が最も大きく、石油と天然ガスだけに依存しているわけではありません。さらに中国は、ロシア産原油や中央アジアからのパイプラインガスなど、中東以外の供給源も持っています。
備蓄の厚さも大きな差になります。EIAは、中国政府の戦略石油備蓄が2024年に推計2億9,000万バレルに達したとしています。Reutersも、中国は2025年を通じて原油在庫を積み増してきた可能性が高く、価格急騰時には輸入を抑えたり、在庫を活用したりする余地が大きいと分析しています。中国では国内燃料価格に対する政策介入余地も比較的大きく、国際価格の上昇がそのまま国内インフレに波及しにくい面があります。
注目されるポイント
第一に、中国の相対的な強さは「中東依存が低い」ことではなく、「代替手段が多い」ことにあります。原油では中国も中東の影響を強く受けますが、石炭の国内供給、ロシアとのエネルギー取引、中央アジアのガス、在庫の取り崩しといった複数の選択肢があります。危機時に一つの供給源が揺らいでも、すぐに全体が止まりにくい構造です。
第二に、日本の弱さは、単なる輸入依存ではなく、輸入先の集中にあります。日本は石油備蓄自体は厚く、2025年12月末時点で約8か月分の石油備蓄を保有しています。しかし、危機が長期化した場合、問題になるのは備蓄の量だけではありません。どの地域から継続的に代替調達できるか、精製設備や物流がそれに対応できるかが問われます。中東への依存度が高い以上、日本は価格と物量の両面で不利になりやすい立場です。
第三に、ホルムズ海峡の混乱は石油だけの問題ではありません。IEAによると、カタールのLNG輸出の約93%、アラブ首長国連邦のLNG輸出の約96%が同海峡を通過しており、世界のLNG取引の約19%が影響を受けます。アジアはLNGでも大きな需要地であるため、原油とガスの両方で価格上昇圧力が同時に強まる可能性があります。この点でも、石炭や国内供給を多く持つ中国は、日本よりショックを逃がしやすい構造にあります。
今後の見通し
短期的には、中国は日本よりも中東危機の初期衝撃を吸収しやすいとみられます。石炭中心のエネルギー構造、比較的厚い原油在庫、中東以外の調達ルートがあるためです。危機の初期局面では、輸入を一時的に減らしつつ、在庫や代替供給でしのぐ対応が取りやすいと考えられます。
ただし、これは中国が無傷で済むという意味ではありません。ホルムズ海峡の大規模混乱が長引けば、原油価格の高止まり、海上物流の停滞、世界景気の減速が進み、中国の製造業や輸出にも影響が及びます。中国の優位は、あくまで短期の耐久力に関する相対評価として理解するのが適切です。
日本にとって今回の論点は、備蓄の有無だけでは十分ではないことを改めて示しています。原油調達先の偏り、LNGの海上輸送依存、代替ルートの限界が重なると、外部ショックへの脆弱性は一気に高まります。中東危機が長引くほど、アジア各国の差は、エネルギーをどれだけ買えるかではなく、どれだけ複線的な調達と代替手段を持っているかで鮮明になっていくでしょう。

