日本とアゼルバイジャン、協力の軸は石油から電力・物流へ、ACG油田の次に何が来るのか?

はじめに
日本とアゼルバイジャンの経済関係は、長くカスピ海沖のアゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)油田開発を中心に築かれてきました。INPEXは2003年に同油田の権益を取得し、現在も生産に参加しています。2025年9月の第12回日本アゼルバイジャン経済合同会議でも、従来の協力分野としてまずACG油田開発と人材育成が確認されており、石油が依然として両国関係の土台であることに変わりはありません。
ただし、関係の重心は少しずつ変わり始めています。ジェトロによると、同会議では新たな協力分野として、アゼルバイジャンの電力産業への再生可能エネルギー導入、データセンター活用による効率化、さらにカスピ海横断国際輸送路、いわゆる中央回廊への日本物流企業の参加が議論されました。つまり日本にとってアゼルバイジャンは、「石油の相手国」から「電力・物流・脱炭素の接点を持つ相手国」へ広がりつつあります。
背景と概要
ACG油田は、いまも日本とアゼルバイジャンの関係の出発点です。INPEXの説明によれば、同社はACGで9.31%の権益を持ち、2024年4月には新しいAzeri Central East(ACE)プラットフォームからの生産も始まりました。生産能力は日量約35万バレルで、権益契約は2049年まで続きます。これは、日本企業にとってアゼルバイジャンが過去の投資先ではなく、現在進行形の重要資産であることを意味します。
その石油協力を支えているのが、サンガチャル・ターミナルとBTCパイプラインです。INPEXによると、サンガチャル・ターミナルはACG原油を処理し、BTCパイプラインはバクーからトルコのジェイハン港まで全長1,770キロ、日量120万バレルの輸送能力で原油を運びます。つまり日本はアゼルバイジャンと、単に油田権益を共有しているだけでなく、カスピ海から地中海へ抜ける西向けエネルギー回廊の一部にも関わってきたわけです。
現在の状況
現在起きている変化を象徴するのが、サンガチャル・ターミナルの電化です。INPEXは2025年6月、同ターミナルの電化プロジェクトについて最終投資決定が行われたと発表しました。従来は7基のガスタービンで自家発電していましたが、外部電力への切り替えによって将来の温室効果ガス排出量を約50%削減できる見通しです。これは、日アゼルバイジャン協力が「石油を生産する関係」から、「石油インフラを低炭素化する関係」へ動き始めたことを示しています。
2025年9月の経済合同会議でも、この方向性ははっきりしていました。ジェトロによると、日本側は火力発電中心のアゼルバイジャン電力産業に再エネを導入することや、データセンター活用による効率化を提案しました。JBICも、COP29を主導したアゼルバイジャンの脱炭素化アプローチに言及し、日本企業と連携して関与する意向を示しています。石油の関係が残る一方で、次の協力テーマが電力システムやGXへ広がっていることが読み取れます。
物流でも同じ変化が見えます。経済合同会議でアゼルバイジャン側は、欧州とアジアの中間に位置する自国の地理的重要性を強調し、中央回廊の開発に日本の物流企業を招きました。外務省の外交青書も、現在の国際情勢の下で、ロシアを通らずコーカサス経由で中央アジアと欧州を結ぶ「カスピ海ルート」の重要性が高まっており、日本も物流円滑化を含む接続性強化を重視していると説明しています。アゼルバイジャンは、この西向けルートの要所としての意味を強めています。
注目されるポイント
第一に、日アゼルバイジャン協力は「石油が終わって次へ行く」という単純な話ではありません。実際には、ACG油田やBTCパイプラインという既存のエネルギー資産を維持しながら、その周辺で電力、再エネ、効率化、低炭素化を積み増していく形です。サンガチャル・ターミナルの電化は、その象徴的な事例だと言えます。
第二に、アゼルバイジャンの価値は「資源国」であることだけではなく、「回廊国家」であることにあります。世界銀行の2025年国別戦略では、今後5年間の重点として中間回廊の発展、デジタル接続、再エネ、蓄電、グリーンエネルギー回廊が明記されました。つまり、アゼルバイジャンはエネルギー輸出国であるだけでなく、物流と送電のハブとして再設計されようとしている国でもあります。
第三に、日本にとってこの変化は、経済安全保障の観点とも重なります。特定地域や特定ルートへの依存を減らし、エネルギーと物流の選択肢を増やすうえで、アゼルバイジャンは中央アジアと欧州の間をつなぐ西側の入口です。外務省がコーカサス経由の物流円滑化を重視しているのも、その文脈で理解できます。
今後の見通し
今後の焦点は、2025年の経済合同会議で示された「次の協力」が、実際の案件へどこまで進むかです。再エネ導入、電力効率化、データセンター活用、物流企業の中央回廊参加は、まだ方向性の提示という面が強い一方、ACGやサンガチャルでの実績があるからこそ、日本企業は比較的入りやすい立場にもあります。石油で築いた信頼を、新しい分野へ横展開できるかが問われています。
総じていえば、日本とアゼルバイジャンの関係は、石油中心の時代を終えたわけではありません。むしろ、石油で築いた関係の上に、電力、再エネ、物流、回廊整備という新しい層が重なり始めた段階です。ACG油田の次に来るものは、石油の「代替」ではなく、石油を土台にした電力・物流協力の拡張だと見るのが最も実態に近いでしょう。

