ロシア「新法ラッシュ」、私生活・言論・ネット検索まで縛る“法律の地雷原”

はじめに:笑えない「法の不条理」

世界には「変な法律」や「時代遅れの条例」がある。けれど、ロシアで近年積み上がっているのは、笑い話の不条理ではない。
それは暮らしのどこに地雷が埋まっているかわからない状態を作り、社会全体を黙らせるための「法の設計」だ。

この設計のポイントは、完璧に統制された独裁よりも、あえて曖昧で広く取れるルールを増やし、「いつでも摘発できる」状況を常態化させることにある。


1. “あなたの私生活”が政策になる:LGBTQの「極端主義」化

象徴的なのが、最高裁が「国際LGBT運動」を“極端主義”と位置づけた流れだ。
これにより、当事者の活動や可視化が、単なる価値観の問題ではなく
治安・国家観の問題として扱われやすくなる。結果として、コミュニティは地下化し、摘発や萎縮が連鎖しやすい空気が生まれる。

ここで重要なのは、「何が極端主義の支援に当たるのか」が市民目線では読みにくいことだ。
レインボーの扱い、イベント、発信、支援表明──線引きが揺れるほど、人は自発的に沈黙する。


2. 「子どもを持たない」も取り締まり対象へ:チャイルドフリー“宣伝”禁止

次に私生活へ踏み込む例として、ロシアでは“子どもを持たない生き方の宣伝(propaganda)”を禁じる法律が進んでいる。
報道によれば、メディアや広告、オンライン上の表現が対象になり得て、企業には高額の罰金が科され得る枠組みとして伝えられている。

ポイントは、「宣伝」の定義が広いと、

  • 仕事や健康上の事情
  • 経済的理由
  • 生き方としての選択
    といった現実的な語りまで、当局の解釈次第で萎縮を生むことだ。

3. 次の地雷:「ネットで“探す”こと」自体を罰する発想

さらに踏み込みが深いのが、“過激派(extremist)コンテンツを意図的に検索した”ことを罰金対象にする、という立法の動きだ。報道では、VPN利用を含むオンライン行動が射程に入り得るとされる。

これは発信規制より一段危うい。なぜなら、

  • ジャーナリストの調査
  • 研究者の資料確認
  • 市民の事実確認
    といった**“知ろうとする行為”**が、解釈次第でリスク化するからだ。

「言ったら罰」ではなく、「見たら罰」へ。
この段階に進むと、社会は議論以前に“理解”が成立しにくくなる。


4. なぜ効くのか:曖昧さは「欠陥」ではなく「機能」

これらに共通するのは、法律が細部まで合理的に整っていることではない。むしろ逆で、

  • どこまでが違反か読みにくい
  • 例外が見えにくい
  • 運用が突然変わる
    という不確実性そのものが、人々の行動を変える。

この不確実性が生むのは、次の2つだ。

  1. 自己検閲の常態化
    「安全側」に寄せるほど、表現・研究・会話の幅が狭まる。
  2. 関係の断絶
    誰かと関わることで自分が巻き込まれるかもしれない。結果、支援や連帯が途切れやすい。

つまり、法は逮捕のためだけでなく、社会をバラバラにする装置として働く。


5. 「巨大な監獄」とは何か:壁ではなく“床”が監視になる

監獄という比喩が示すのは、巨大な壁で囲うことではない。
日常の床一面に地雷が埋められ、普通に歩くだけで「踏むかもしれない」状態が続くことだ。

  • 家族・恋愛・生き方が、政治の取り締まり対象になる
  • 検索や閲覧が、疑いの入口になる
  • 何が安全かが、法律よりも“空気”で決まる

この状況が長引くほど、「何も言わない」「何も調べない」「関わらない」が合理的選択になってしまう。


まとめ

  • ロシアではLGBTQを“極端主義”枠に寄せることで、可視化と支援を萎縮させる空気が強まっている。
  • 「子どもを持たない生き方」の“宣伝”を禁じる発想は、私生活の語りまで取り締まり対象にし得る。
  • “過激派コンテンツを検索する行為”を罰する動きは、「知ること」自体をリスク化する。
  • こうした制度の怖さは、厳密さではなく曖昧さと運用の揺れが生む自己検閲にある。

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